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――軍人奴隷朝、首都アッコン。
そこには三人の男と三人の女が謁見の間を訪れていた。
服装に統一は取れておらず、男の方は王族風の者もいれば、冒険者や剣士もいる。女性三人のうち二人はシスターで、もう一人は魔女の様な衣裳を身につけていた。
その六人を迎えると、軍人奴隷朝の王“剣匠”ユースフ=マフディーは嬉しそうに微笑んだ。
王族風の男とシスター風の女二人は恭しく頭を下げているが、他は思い思いの体勢だ。
「ここでは礼儀などいらぬぞ。他の三人を見習え」
そう言ってユースフ王は三人に頭を上げさせた。
冒険者は「ケッ、無礼で悪かったな」と毒づいているが、王は気にもとめていなかった。
「一年ぶりくらいか。貴公らが来てくれるとは思ってもいなかったぞ。一体どうした?」
ユースフ王は以前、彼等と会った事がある。というより、この旅人達が金欠であるというので傭兵志願してきたのだ。
その時の彼等の活躍は凄かった。冒険者の剛弓、王族風の男と剣士の剣技、そしてローデシア大陸には数少ないシスターや魔女の援護で神聖フラウル帝国との戦に大勝したのだ。
しかし、彼等は給与を受け取ると、すぐに航海を再開させてローデシアから消えた。
「ただの戦には関わりたくないんだけどよ、また金欠なんだ。雇ってくれねーか?」
冒険者風の男が、礼儀などを全く無視した言葉で王に話し掛けた。近衛騎士や文官などはムッとした表情をしているが、男は気にも止めない。彼は昔から礼儀とは無関係な人間だった。
「ははっ、それなら喜んで迎えるぞ。何なら戦が終わるまで居てくれて構わないがな」
ユースフ王は大笑いしているが、おそらく本気で言っている。
「やなこった!俺達に何百年も戦争付き合わせる気かよ。大体な…」
冒険者は猛烈に抗議するが、やはり王は気にも止めない。からかっている様にも見える。
「それより、ユースフ王…一体この国はどうしてしまったのですか?町には焼け跡が多く見られるし、来るまでに何人もの怪我人を見ました」
王族風の男がまだ何か言いたそうな冒険者の言葉を遮って話を進めた。
冒険者はまだ一人でぶつぶつと文句を言っている。
青く長い髪を持つシスターが彼に続けた。
「先程私達で何人か治療させて頂きましたが、あれはどう見ても魔法の傷です。以前訪れた時は、魔法で傷を負う方などいらっしゃらなかったと思いますが…」
ふむ、とユースフ王は一旦間を置く。六人共彼の言葉を待っていた。
「ここ最近だが、ワケのわからん怪物が襲ってくる様になったのだ。他国と戦争をする時は大群で現れ、毎晩の様に一匹か二匹現れ夜襲をしかけてくる」
まるで神話に出てくる悪魔の様な奴等だ、とユースフ王は忌々し気に言った。その御蔭で現在三国共休戦状態だと言う事も伝える。
「悪魔…一体何なんだろう?心辺りはありますか?」
「解ってたら苦労せんわ。毎晩兵が殺されとると言うのに全く対策が打ち出せん。昨夜だって傭兵隊長が相討ちとなったのだぞ」
惜しい人物を亡くした、と少々王の語気が荒く言う。彼は結構気性が荒い方なのだ。冒険者の男は、彼のそんなところが気に入ってもいた。
「死体は無ぇのか?」
青髪の剣士が口を挟んだ。
見れば何か解るかもしれないと思ったのだろう。一言に怪物と言われても解らないのも事実だ。
「残念ながら、無い。奴等は死ぬとしばらくしたら消えてしまうのだ。蒸発したかの様にな」
剣士は魔女に視線を向けた。何か思い当たる事は無いか、という意味だろう。
「それが何かは解らないけど、この世界に実体が無い存在なのかもしれない」
謁見の間に入って、初めて魔女が口を開いた。彼女は普段でも口数が少ない。
「この世界に実体が無いだと?一体どういう事だ」
ユースフ王が説明を促した。相当苛々している様子だった。
「さあ…私も専門に学んでいたワケではありませんので」
魔女は申し訳なさそうに頭を下げる。しかし、そうでない限り死体が蒸発するなど説明がつかないのだ。おそらく祈祷師が杖で魔物を召喚したのと同じ様なものなのではないか、と魔女は推測したが、確証も無いので何も言わなかった。
ユースフ王は溜息を吐いたが、自分の態度を改めた。長旅をしてきた人間に対して八つ当たりをしても仕方が無いと思ったのだ。
「いや、すまなかった。俺も最近疲れているんでな。今宵はささやかだが宴をさせていただこう。せっかくリーベリアの英雄達が来て頂けたのだからな」
王はにやりと笑い、冒険者達を見回した。
「よせやい。俺達はただのトレジャーハンターだ。こんな見ず知らずの土地で英雄扱いされる覚えは無ぇ」
「ホームズ!そんな言い方無いでしょ!?」
赤い髪をしたシスターが仲間の無礼な言葉を諌める様に名を呼んだ。いきなり後方から叱られたホームズという名の冒険者は、ビクッとして後ろを見る。
火の巫女と言われた少女・カトリが恐い目付きで彼を見ていた。
彼等はリーベリア大陸のサリア王国夫妻となる事を約束されている人物だ。
「相変わらず尻に敷かれとるようだな、ホームズは」
可笑しそうに王はそれを眺めている。
「うるせぇ!こんな乳臭いガキに敷かれてたまるか!!」
「ち、乳臭いって…酷い、ホームズ」
途端に泣きそうになるカトリ。王族風の男が慌てて間に入ってカトリのフォローをしているが、これは彼等にとって日常茶飯事だった。
この王族風の礼儀正しい青年は正真正銘の王族で、リーヴェの若き国王・リュナンである。横にいる青髪のシスターは彼の王妃で、名はメーヴェと言う。
「“ゾーアの魔剣士”殿は宴前に俺と剣の稽古でもどうだ?」
青髪の剣士の方を向いて王が問う。彼の名はシゲンと言い、“ゾーアの魔剣士”としてリーベリアでは最高峰の剣士だ。剣の腕はかの“シュラムの死神”と同等である。
「げっ…それは遠慮しとくぜ。アンタの相手は疲れるんだ」
以前にも彼等は剣を合わせた事があるが、一時間以上戦って勝負はつかなかった。もっとも、シゲンはこの王が本気で戦っている様には見えなかったが。
「つまらんな。シエラ殿からも何とか言ってやってくれ」
シエラと呼ばれた金髪の美しい魔女は少し困った様な笑みを見せてシゲンを見るが、彼は首を横に振っただけだった。
リーヴェ国王夫妻のリュナンとメーヴェ、次期サリア国王夫妻のホームズとカトリ、“ゾーアの魔剣士”シゲンと魔女シエラ…邪神戦争でも英雄とされている人物達で、これからのリーベリアを背負っていく宿命にある。。
彼等は終戦後にまだ見ぬ大陸を求めて旅に出た。
以前アッコンを訪れた時は航海中に船が故障したのでその修理と兼ねて金を稼いだのだが、今回は本来挨拶に来ただけだった。彼等はもうリーベリアに帰ろうとしていたのだ。
しかし、町のあまりの異常ぶりに“傭兵志願”として軍に入る事にしたのだ。ホームズがそういった事を正直に言えないのは昔からだ。
ユースフ王もそれを見抜いている様だが、あまり気にはしていない。彼はそんなホームズを気に入っていた。
「夜には怪物が現れるかもしれんからな。武器は手放すなよ。部屋は客室を使ってくれ」
ユースフ王は彼等にそう言って、退出を促した。
やはりリュナンとメーヴェ、そしてカトリは丁寧に頭を下げるが、シゲンとホームズは自由な姿勢を崩さなかった。シエラは全くの無関心と言った感じだ。
王は苦笑し、次の謁見者を招き入れた。
「さて、リュナンよ。一体どうする?」
客間に案内されてきたホームズが、唐突にリュナンに話し掛けた。
彼等には二部屋与えられ、男女三人に別れている。
シゲンは愛剣を磨きながらこちらに耳を傾けていると言った感じだ。
「どうするって言われてもね…僕等はその怪物事態見た事が無いからどうしようも無いよ」
リュナンも手を顎にやりながら考えている様だが、実際その通りだ。
見た事も無いものの事をくよくよ考えていたところで仕方が無いのだ。
「百聞は一見に如かずっていうだろ?実際その怪物とやらと戦ってみなきゃ話になんねーよ」
シゲンは磨き上げた魔剣“デュラハン”を鞘に収め、立ち上がって部屋の扉へと向かう。
「それより早く行こうぜ?久々の豪勢な料理楽しもうじゃねぇか」
リュナンとホームズは顔を見合わせ、彼の後を追った。船の生活では、やはり残量を考えてしまうので満腹になるまで食べるという事は避けてしまう。
久々に満腹感を味わうのも悪くないだろう。
宴では、ホームズが暴飲暴食に走っていた。カトリの料理の百倍旨い等と余計な事を言うから始末が悪い。今はメーヴェがカトリを慰めてやっている。
リュナンはユースフ王と怪物について話しながら食事をしていた。
シゲンがふとシエラを見ると、彼女は水だけしか取ってなかった。
「相変わらず少食なんだな。体壊すぞ?」
シエラは首を少し横に振った。
「食べる時は食べてるから」
美しい魔女は愛する剣士に微笑みかけて答えた。
彼女は一生シゲンについて行くと心に決めている。
しかし、シエラから笑みが消えて窓の外をハッと見た。
「どうした?」
怪訝な顔をしているシゲンの声には答えず、不意に叫ぶ。
「危ない!皆伏せて!!」
彼女が大声を出す事は珍しいので、シゲンはまず驚いてしまった。
人々はそれだけで何が起こるかを判断し、即座にしゃがむと宴会場の壁が大爆発を起こした。
悲鳴が響き渡る。
「落ち着け、皆者!近衛騎士は怪我人と戦えない者を他の部屋へ連れて行け。傭兵共も呼んでこい」
ユースフ王の対応は迅速で、また騎士達も早かった。
こういった奇襲に慣れてしまっているからかもしれない。
「おのれぇ、怪物共め!今日こそギタギタにブチ殺してやる」
しかし、王は相当頭に来ている様子で、命令した後は数人を率いて外へ出てしまった。彼は頭に血が上ると途端に口が悪くなるのだ。
シゲンにメーヴェ達の護衛を頼み、リュナンとホームズもそれに伴った。
「糞っ垂れめ…人が飯食ってる時に良い度胸じゃねぇか!」
ホームズは竜の骨からできている“ドラゴンアロー”に弓を番えながら走っている。彼が激怒している理由は、さっきの大爆発のせいでスープが服にかかったのだ。
頬にもソースがついたままだが、今はそんな事を気にしている時ではない。
外に出るやいなや、こうもりの様な翼を持った大きな山羊の怪物が、空中から火球の呪文を放ってきた。それによりホームズの横にいた近衛騎士が丸焦げになっている。
「ホームズ、奴の翼を撃て。落ちた所を僕が倒す!」
「任せとけ!」
言うと、リーベリア1の剛弓を放った。
狙いは違わず翼を貫き、怪物はバランスを崩した様に地面に落ちた。
リュナンがすかさずその怪物に聖剣“ルクード”を振り降ろした。破邪の力を持つ必殺の剣だ。
“ルクード”は見事に怪物の首を切断させ、一瞬で蒸発させた。
「ユースフ王、これを!」
破邪の力に弱いと確信したリュナンは妖魔殺しの“ソルの剣”をユースフ王に手渡した。
「聖なる力が篭められた剣です。普通の武器で攻撃するのと格段の差があります」
「恩に切るぞ、リュナン殿」
“ソルの剣”を抜いたユースフ王は、翼を持つオーガーの様な醜い怪物に単身斬りかかっていく。
怪物は大鎌を振り回すが、“剣匠”と讃えられている王は難無く避けて反撃の剣で怪物の腕を斬り落とした。余った手から雷光を放つが、やはり王には当たらなず怪物の首が飛んだ。
強い、とリュナンは正直に思った。シゲンが義父のヨーダより強いかもしれないと言ったのは正しいかもしれない。
「おぉ…リュナン殿。これは凄い剣だな。あの強靭な怪物がこんなに簡単に葬れるとは思わなかったぞ」
普通の剣では十回以上斬り続けても死なない時がある。
「所詮この怪物も邪なる存在。聖なる力には勝てません」
リュナンは答えてから、辺りを見回した。
ホームズは2匹の怪物と戦っていた。そしてもう1匹が先程の宴の間に入って行くのが目に見えた。
「糞が…今日はいつもより多いぞ」
ユースフ王は独り呟く様に言う。
普段は多くても2匹程度なのだが、今日は既に5匹いた。まだ他にもいるかもしれない。
「俺はホームズの援護をするから、リュナン殿は宴の間に入り込んだ奴の始末を頼む。シスター達が心配だ」
彼女達は傷を癒す事はできても戦う事はできない。リュナンもそれは解っている。
「心得ました」
リュナンは一礼してから、慌てて来た道を戻った。
ホームズは2匹の同時攻撃を紙一重で避けながら反撃の機会を伺っていた。
弓で射落とし、剣で始末しようとしているのだが中々上手くいかない。
このままでは埒が空かないと思ったホームズは、多少強引な方法に出た。相手が呪文を唱えたと同時に矢を放ったのだ。
「うらぁっ!いつまでも調子に乗ってんじゃねぇ!!」
破邪の力を持つ矢は火球の魔法を貫いて怪物まで到達した。
追い撃ちをかけようとしたが、もう1匹の怪物から稲妻の呪文が飛んできたので慌てて避ける。
「ホームズ、助太刀するぞ」
ユースフ王が言いながらもう1匹の怪物に斬り込んで行った。
「助かるぜ」
ホームズは武器を父親から受け継いだ“ルナの剣”に持ち替え、矢が胸に突き刺さって苦しんでいる怪物の前に立った。
「ケッ、化け物が」
人間で言う心臓の位置に矢が刺さっているのに死ぬ気配が全く無い。
しかし、化け物に与える情等無い。ホームズはそのまま剣を振り下ろした。
“ルナの剣”は固い鎧でもまるで紙の如く斬り裂く魔力があり、一斬りで致命傷を与える。しかし、その手負いの怪物は5回程斬り続けてようやく息の根を止めた。
破邪の力が無い武器では、“ルナの剣”と言えども致命傷を与えれないのだ。
「何つータフな奴だよ…」
乱れた息を整えてユースフ王の方を見ると、彼は妖魔殺しの剣を巧に使って勝負を終わらせてこちらに笑いかけた。
「さすが“シーライオン”ホームズだな。見事だ」
「よせやい。それよりリュナンは?」
「彼はシスター達の所へ向かった」
「そうか…なら安心だな。俺とアンタで町の方を見て来よう。まだ怪物がいるかもしれない」
破邪の武器がない近衛騎士や傭兵では怪物を倒すのは難しい。犠牲が増えるだけなのだ。
王は頷いて、町へ向かった。
宴の間では、シゲンが苦戦を強いられていた。
彼の愛剣は変わった特殊能力があるが、破邪の力は無い。何度か斬りつけたのだが、全く敵は衰える気配を見せなかった。
「糞っ…何だコイツは。剣が効かねぇ」
勿論、シゲンはダメージを負っていない。怪物の芸の無い斧攻撃が当たる程彼は愚かではない。
シエラが部屋の隅でシスター二人を守っているが、心配そうにこちらを見ている。
「シエラ、このバケモンの動きを封じれるか?」
視線は怪物から動かさなぬまま、恋人の魔女に呼びかけた。
シエラは頷き、呪文の詠唱に入る。
「黒き霧よ…蹂躙せよ!」
暗黒系上位魔法〈トゥマハーン〉。黒い霧が怪物の上に現れ、そこから黒い稲妻の様なものが落ちた。
怪物は苦痛の奇声を上げ、思う様に動けないでいた。暗黒の霧は敵の動きを封じる効果を持っている。
「今よ!」
シエラの声に従い、シゲンは跳躍しながら全体重を乗せて斬りかかった。
飛竜の技である。
狙いは違わず、見事に頭が真っ二つとなっていた。
しかし、怪物はそれでも斧を振って反撃を試みてきた。まさか頭が割れながらも反撃してくると思ってもいなかったシゲンは、不覚を取り、腹部に斧の攻撃を食らってしまった。
「シゲン!」
シエラが駆け寄ってくるが、シゲンはそれを手で制した。
刃の部分ではなかったのは幸運だったが、肋は折れたかもしれない。それほどの痛みだった。
「この野郎…っ!」
痛みに耐えながら、何度も愛剣で斬りつける。
動かなくなった怪物を見て、ようやく一息吐いた。
カトリとメーヴェが慌てて駆け寄り、治療を始めた。
「…こんな奴に毎晩攻め込まれたら堪んねぇな」
「動かないで下さい。肋骨にヒビが入ってます」
入口からリュナンが入ってくるのが見えた。シゲンは手を振り、こちらが無事である事を知らせる。その際に肋が痛んだが、メーヴェ達の御蔭でさっきよりは大分楽になっている。
「シゲン、大丈夫か?」
「ああ…油断したぜ。まさか脳味噌ぶちまけてんのに反撃してくるなんざ夢にも思わねーよ」
ガーゼルより遥かに厄介だぜ、とシゲンは憎々しげに語った。
「で、ホームズは?」
「ユースフ王と外で戦ってる。あの二人は大丈夫だよ」
ホームズは“ドラゴンアロー”、ユースフ王にはリュナンが“ソルの剣”という破邪の武器を貸しているから負ける事は無いだろう。リュナンにしても必殺の聖剣“ルクード”を持っているからそれほど苦労はしない。
破邪の武器ならば、いかに強靭な怪物と言えども致命傷を与えられるのだ。リュナンはそれをシゲン達にも話した。
「破邪の武器か…船の倉庫に残ってねぇか?」
「覚えてない。ただ、ホームズがこの前いらない物を売ってたからな…」
おそらくは無いだろう、と続けた。
「まぁ、後で見に行こうぜ。とりあえず今は、場内で怪我人の治療をしながら怪物が残ってないか調べよう。作戦会議はそれからだ」
リュナン達は頷き、まるで廃墟の様になった宴の間を後にした。
死者は町人を含む15名、倒した怪物の数は7匹だった。
いつもは2匹倒すのにそれくらい犠牲者は出ていたが、リュナン達によって犠牲は最小限に留められた。
シスターの活躍が大きい。普通なら放っておいたら死に至る怪我でもすぐに治してしまうのだ。それだけで死者数は半分になった。もっとも、そのせいでシスターのカトリとメーヴェは疲労困憊なのが見て取れる。
それよりも、2匹だけでも充分苦労する相手がいきなり3倍になっていたのには困惑を隠せない。
リュナン達が今日居てくれなかったら国事態が危なくなっていたかもしれない、とユースフ王はひそかに思った。
「しかし、凄いな。この“ソルの剣”とやらは。斬れ味は抜群な上に軽い。リーベリアにはこんなものがゴロゴロあるのか?」
ユースフ王は先程リュナンから借りた剣を何度か素振りをしながらホームズに聞いた。
ローデシアには破邪の武器など存在しない。 しかし、妖魔が出現しない地なのだからそれも仕方ない。必要性が無いものを作ろうとはしないだろう。
「いや、ゴロゴロとは無いな。古代遺跡を巡ってるとたまに逢えるくらいだ」
ホームズも多少疲れているようだった。声に元気が無い。
あれから彼はユースフ王と連携して2匹の怪物をほふったのは良いが、目の前で人が喰われている様を見るとさすがに気が滅入ったのだ。
カトリを連れてこなくて良かった、と心から思った。
「ふむ…残念だ。今度お前の国から輸入してみようかと思ったのだがな」
剣を鞘に収め、リュナンに返そうとしたが彼はそれを断った。
「それは陛下がお使い下さい。“ソルの剣”は妖魔戦で本領を発揮しますが、普通の武器として使ってもこれより優れている剣は多くありません」
「しかし、良いのか?貴公等も大変だろう…」
「ご安心下さい。先程船の倉庫を見て参りましたら、まだ破邪の武器が数本残っていました」
数本とは言ったものの、あとは扱い難い“ドラゴンランス”しか残っていなかった。一応破邪の武器で攻撃力は高いが、重た過ぎる。避けられたら命取りになるだろう。
リュナンは聖剣“ルクード”を持っているから問題無いが、他の騎士達に貸してやるものが無いのが辛い。
ホームズが売ってしまった事を心から恨めしく思った。
「そういうこった。アンタに死なれちゃ困るから、持っといてくれ」
「ガハハッ。俺が死んだらお前に王位をくれてやるぞ、ホームズ」
冗談の様に言っているが、おそらくこの王は本気で言っているのだろう。ホームズはバツの悪い表情を見せ、毒づいた。
「…やめてくれ。何だか似たような台詞を以前に聞いた事がある」
そんな事より、とホームズは続けた。
「これからどうするんだ?毎晩あんな化け物と戦ってたらシャレになんねーぜ?」
「…手が無い事は無いんだがな」
中々難しいのだ、と憮然として答えた。
ユースフ王はふと考える素ぶりを見せる。
しかし、彼の考えている作戦はあまりに危険だった。
「よければ聞かせてもらえますか?」
リュナンの促しに、一同も頷く。
このまま行動しなかったらそれこそジリ貧である。毎晩兵を少しずつ失い、弱まったところを潰される。
それはどの国にも当て嵌まる事だ。しかし、リュナンもまた、思想や文化の違いを乗り越える事がいかに難しいかよく知っている。
危険な命令を下さねばならない時の王の苦痛もよく解っている。
それ故、悩むのだ。
彼等の会議は、太陽が上る頃まで続けられた。