リンゴ配りのお姫様
作)大島裕二様 |
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行軍を続けるユトナ同盟軍のメンバーであるサーシャは、ふと市場で売り出されているリンゴに目がとまった。とても熟れているのが色合いでよくわかる。 「おいしそうなリンゴですね。ちょっと食べていいですか?」 試食販売ということになっているので、この質問はどうかと思われるのだが黙って食べて後から色々言われるよりは賢明な判断だろう。 「はいよ、可愛らしいお嬢ちゃん。セルバで採れたてのおいしいリンゴだから、おいしく食べてその舌で味を確かめてごらん」 「わぁ、やったぁ!!それじゃ、一ついただきまーす」 サーシャがリンゴに手を伸ばし、食べようとしたその瞬間。別の方向から手が伸びてリンゴを横からかっ攫っていた。 「ああっ、私のリンゴがーっ!!」 何事かと思って周囲を見回すと、そこには、近衛騎士のケイトがいてばっちりとその手にリンゴを持っていた。 「だめですよ、買い食いは行儀悪いですよ。それに、こういうものはちゃんと私が毒味してから・・・」 「あの、まだ買ってもいないんだけど・・・。そこの旗に書いてあるでしょ、『試食販売』って。実際に食べて良品だと思ったら購入を考えるっていうやり方なのよ、これ」 そう言われて、旗に目をやるケイト。確かに、試食販売と書いてある。 「・・・でしたら、私がまず最初に毒味をして判断します。もし腐っていたりしたら、大変ですからね」 聞き方によっては凄く失礼なことを言うケイト。幾重にも渡るチェックをクリアして市場に出されたというのに、まだここでチェックを入れるつもりなのか。 「もぅ、細かいんだから・・・。いいわ、じゃあ私はこっちのリンゴで味を確かめるからね。ケイトはそっちのリンゴで味見するといいよ」 「え゛・・・」 これでは、毒味役としての意味が全くない。もう一度サーシャの手からリンゴを拝借しようとしたが、今度は間に合わなかった。ケイトの繰り出される手をうまくかわし、ぱくりとリンゴをかじってしまったのだ。 しゃりしゃりとおいそうな音を立てて、サーシャの口の中でリンゴが砕かれていくのがケイトには速攻でわかった。自分が毒味する間もなく、あっさりと・・・。 もし、これで王女の身に何かがあったらリーザ王妃とロファール王に申し訳が立たない。ああ、どうすれば!! そんなことを模索している最中、サーシャが急に苦しみだした。何事かと思っていると、急に彼女は足元に文字を書き始めた。 『水を・・・』と。 どうやら、あまり噛まないうちに飲み込んだので喉につまったらしい。安心した反面、拍子抜けしてしまったケイトだった。 さて、先ほど僅かな期間だけ地獄を味わったサーシャはその後、ケイトの反対を押し切って(つーか無視して)リンゴをまるまる一山買って拠点に戻ってきた。袋一つには、リンゴがおよそ15個も入っている。 いくら食べ盛りのサーシャとはいえ、これを全部一人で片付けるのは流石に無理があるので誰かにおすそ分けすることにした。 袋を手に提げて渡り廊下を歩いていると、そこではアーキスとクライスが追いかけっこ(サーシャにはそう見えた)をしていた。・・・というよりは、アーキスが一方的にクライスに追われているようにしか見えないのだけど。 「アーキス・・・貴様と言う奴はーっ!!よりにもよってこのオレを、覗きに誘うなどとは!!貴様の騎士らしくない性格を、オレが叩きなおしてやる!!」 「ひぇーっ、おっかねーっ!!ほんの冗談なんだよー、許してくれよ!!お前と俺の仲じゃないかよ!!」 「親しき仲にも礼儀ありだ!!・・・あ、サーシャ王女・・・。なぜここに?」 まるで気づいていなかったクライス。アーキスのほうは、どうやら気づいていたらしい。突然許しを請う態度に出たのも、多分これを狙ってのことだろう。 「こんにちは、二人とも相変わらず面白い人達ね!!」 「「お、面白い!?」」 はたして、サーシャの目にはアーキスとクライスは如何ほどの人間と見なされているんだろうか。読心能力のない二人には、当然わかるわけがなかった。 「おや、その袋の中身は・・・。もしや、セルバ直送のリンゴが!?」 「うん、ちょっと買いすぎちゃっておすそ分けしようと思っていたの。よかったら、二人とも食べる?」 袋の中からリンゴを2個取り出し、アーキスとクライスに見せるサーシャ。その色合いから見て、とてもおいしそうだ。 「ありがたく、頂戴いたします。ちょうどこのバカに追われてて、腹が減っていたとこなんすよ」 「誰がバカだ、誰が・・・。謹んで、そのリンゴをいただきます」 アーキスに不満を言いながらも、きっちりとリンゴは貰うクライス。やはり彼もお腹が空いていたのだろうか。 「はい、どうぞ♪ これであと13個ね、次は誰にあげようかな〜♪」 鼻歌混じりに廊下を駆け抜けていくサーシャ。受け取ったリンゴを食べようとして、アーキスとクライスはあることに気がついた。 「もしかして、生でバリッと食うのか?これ・・・」 「いや、刻んでウサギさん型にして食うのもオツだと思うが・・・。まさか、王女は生でシャリシャリ食べていたのか?」 「・・・多分、そうじゃないか?かなり庶民的な王女さまだよなぁ、サーシャ王女は・・・。」 偽らざる、彼らの実感であった。 今現在滞在している街の屋敷の中で、一際大きな部屋がある。そこでは、今軍の男女数名が集まって『秋の風物詩』とは何かを討論中であった。その話し声がサーシャにも聞こえてきて、こっそりと聞き耳を立てる。 「さてと、秋といえばまずはスポーツの秋であろう。身体を動かし、己を鍛える。いいことではないか?」 ロジャーが、自信たっぷりに畏怖堂々と発言する。王宮警備などでよく身体を動かしていたロジャーらしい意見だ。 「いんや、秋といえば芸術の秋ってのもあるぜ。自然の中に身をおいて、芸術の中に溶け込む。これもいいことじゃねぇか?」 この発言は、ノートン。実は彼、自然がとても大好きな男なのでよく警備や巡回の途中でラフスケッチなどを描いたりすることがあるのだそうだ。 「いやいや、やっぱり秋といえば食欲の秋が・・・。」 これはナロン。まだまだ育ち盛りなので、いっぱい食べたいようだ。 傍から聞いていたサーシャは、ナロンの発言を皮切りにして室内へと乱入。そこには、ジュリアやエステル、ラケルやメリエルなどの女性陣もきっちりといた。これから発言しようと口を開けた瞬間にサーシャが乱入したため、開いた口がそのままの状態で固まってしまった。 「ちょーどいいところにみんないたのね。よかった、リンゴのおすそ分けをしているから、よかったらみんなで食べてね」 周囲の状況など全く意に介さず。かろうじて、メルだけが開いたままの口を強引に閉じ直して我に返った。 「あの、サーシャさま・・・?そのリンゴ、一体どこから・・・」 「あ、これ?セルバからの直送リンゴだって市場の宣伝文句にあったから、買ってきたんだけど数が多すぎて一人じゃ対処出来ないのよ。だから、みんなにも食べてもらいたいと思って」 話しながらも、淡々とリンゴを周囲に配っていくサーシャ。今やメルの手にもばっちりとリンゴは乗っかっている。 「さ、召し上がれ。売り上げNo1(個人予測)を誇るセルバ直送のリンゴだから、きっとおいしいわよ」 仕方ないので、みんな黙々とリンゴをかじり始めた。しばらくすると、ジュリアが歓声をあげる。 「あら、このリンゴ本当においしいじゃない。こりゃ売り上げNo1ってのも頷けるわね」 「ほんとほんと、直接かじればかじるほどおいしさが染み出てくるような・・・。そんな感じね。これは絶品ね」 エステルにも好評のようだ。見れば、その場にいた全員がおいしくリンゴをかじっていた。つられてサーシャもまたリンゴをかじる。 ふと袋を覗いてみると、もうリンゴの残数があと僅かに減っていた。あれ?いたのは自分も含めて7人のはずだからあと6個のはずなのに・・・。 そう思って近くを見回していると、いつの間にかヴェガがリンゴを3つも抱えておいしく食べていた。さっきまでは気配すら感じさせなかったこの男、どうやって袋からリンゴを抜き取ったのだろうか。 「ふむ、美味い・・・な・・・。おかわりはないのか?」 「食べすぎです。もう十分だと思いますけど・・・」 一人で、一度に3つも取って行った人間が何を言うのやら。 「まさか、あそこでヴェガさんが来るとは思ってもいなかったわ・・・。おかげで、もうリンゴの残数が3個にまで一気に減っちゃった・・・」 予想外の出来事のため、配布出来るリンゴの残りが3つにまで減少。あとは誰に渡そうかなと思っているそのときだった。オイゲンとリュナンが会議室から出てくるのを発見。 (チャーンスッ!!リュナン様とオイゲン将軍に渡して、残り一個は私自身でおいしく頂こうっと!!) 目がキランと光り、素早くリュナンたちに接近するサーシャ。かなり軽快なステップで歩んでいた。 オイゲンは、すぐさまサーシャの存在に気がついたようで彼女の方向に向き直った。 「おや、サーシャ王女ではないですか。このようなところでどうしたのですか?」 「サーシャ、ここで何しているんだ?会議にでも加わりたいのかい?」 振り向き様に、リュナンの口からは会議参加の意思表明なのかと思われてしまった。その瞬間、サーシャは不機嫌な顔になる。 彼・リュナンはあまりにも現実的な思考の持ち主で、異性からのアプローチにはてんで無関心のようだ。そのことが原因で軍の女性からはいらぬ疑惑を持ちかけられ、今ではその疑惑のせいで彼にまともに近づく女性はめっきり減ってしまった。 「もう、そんな事ばかり言ってるから未だに堅物呼ばわりされるんですよ。オイゲン将軍と並ぶ、軍の2大堅物として今や有名ですよ。最近若年層の人達からの支持も低下しているそうですし」 「なんですとっ!?若者からの支持が低迷気味ですと!?これはいけません、リュナン様!!一刻も早く妃に相応しい相手おぶわっ!!」 暴走を始めたオイゲンに、リュナンが頭からバケツを被せて沈黙させる。オイゲンは齢60を過ぎてもなお心意気は若者そのものであるため、若い女性などの人気スポットなどをよく観察したりしているのだ。 「お前の暴走にはもう慣れたが・・・大概にしとけっ!!・・・あれ、その袋はなんだい?」 バケツを被せられて床に転がるオイゲンをさらりと無視して、サーシャの持っている袋に注目するリュナン。中身が気になる・・・。 「ま、まさかっ!!その袋を僕の頭に被せて、悪戯書きをして遊ぶつもりじゃ・・・」 「なんでそーいう発想になるんですっ!?中身はリンゴですよっ、売り上げNo1を誇るセルバ直送の採れたてリンゴです。おいしいですよ〜、さっきから沢山の人達におすそ分けしてきたんですけどとにかく好評で好評で・・・。残り3つあるので、お二人でわけて食べてくださいね」 話の途中から、もうすでにリュナンにリンゴをがっしりと握らせているサーシャ。足元に転がっているオイゲンにも、ばっちりとリンゴを握らせているあたりさすがだ。 「あ、ありがと・・・。さっそく食べさせてもらうとするよ。あむ・・・」 リンゴをかじったリュナンだったが、次の瞬間にはそのリンゴをまじまじと見つめていた。 「・・・ねぇ、このリンゴ何か変なんだけど・・・。まるで、虫が中身をかじっていったような・・・」 「あら、大当たりですねそれは!!虫食いリンゴは、とってもおいしい証拠として大好評なんですよ!!ささ、全部ちゃんと食べちゃってくださいね。私も食べよ」 「・・・はは・・・。虫も大好評のリンゴか・・・。名誉なことだ、ね・・・」 その翌日、オイゲンがあのリンゴを食べて倒れたそうだ。 原因は、まだリンゴに僅かだけ残っていた農薬らしい。ちなみに、他のリンゴには何も異変はなかったので誰も取り立てて大騒ぎすることはなかったが、リンゴを購入した店舗では一斉に製品の回収が行われたそうな。 おしまい |
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