いつか想いは叶う…?

作)エクリクシス様

 

「はぁ…」
ブラードの公園で空を見上げながら少年が溜め息を吐いていた。
名はゼノ。若いとはいえ、ホームズ率いる軍の主力の一人で剣に関してはかなりの腕だ。
しかし、今は剣士には程遠い姿で、客観的に見ても唯の悩んでいる少年にしか見えないだろう。
「はぁ…」
ゼノは溜め息を吐き、近くの木にもたれた。
そのままずるずると身を任せて座っていき…
「はぁぁ…」
もう一度深い溜め息。
「…どうしたの?ゼノ君。溜め息ばっかりして」
たまたま通りかかったウエルト王女のサーシャがたまらず声をかけた。
「あ…サーシャ王女」
見上げた虚ろな瞳の中に、太陽の様に明るい笑顔が入ってきた。
彼女の笑顔は暗く冷えきった心でも暖かく包み込み、癒す力があると最近仲良くなったルカという少年が断言していた。
(まぁ、なんとなく解るけど)
心の中で呟いた。
「あっ、わかった!ゼノ君便秘なんでしょ?私も最近それで苦しんでるんだよね〜」
しかし、恐ろしく天然だ。それも長所とルカは言っていたが…。
「やっぱり長旅で疲れてるからかなぁ…?」
体を伸ばしながら言う。
「そうかもしれないね」
曖昧に返す。ゼノが悩んでいる事は勿論便秘などではない。
「その言い方から察するに…ゼノ君は便秘とは違うんだ?」
「うん。違うよ」
「…?どこか具合いでも悪いとか?カトリちゃんに診てもらう?」
「カ、カトリ!?」
いきなりその名前が出て、動揺を隠せなかった。
「う、ううん。僕は大丈夫!ちょっと憂鬱な気分になってただけだからっ!!し、心配する程のもんじゃないよ!」
声も裏返り、明らかに動揺している。
「そっかぁ。ゼノ君、カトリちゃんの事で悩んでたのね?」
「うぐ…」
先ほどの見苦しい言い訳を見事に粉砕して鋭い一撃をサーシャは入れた。
「好きなの?カトリちゃんの事」
そう訊くと、彼女はゼノの隣に座り、顔を覗き込んできた。
(…逃げれそうにないな。まぁ、サーシャ王女ならペラペラ言いふらしそうにないから、言ってもいいかな?)
正直なところ、ゼノは誰かに相談に乗ってもらいたかった。しかし、人選に困ったので、結局誰にも話なかった。
「うん…」
正直に答えた。
「やっぱりね♪何と無くだけど、そんな気がしてた。ゼノ君ずっとカトリちゃんの事見てたし」
「き、気付いてたの!?」
「うん♪」
自分で見る意思はないのだが、無意識にカトリを見てしまっている…というのは最近よくある。
(しかし、気付かれていたとは…)
ゼノはかなり恥ずかしくなった。
「それで、どうしたの?カトリちゃんと喧嘩したとか?」
「ううん。喧嘩どころか、最近話してもないよ」
「どうして?」
「話すのが辛いんだ…。何故かわからないけど」
「そっかぁ…」
サーシャは視線を下に移した。
「…どれだけ僕がカトリを想っても、カトリは僕を想ってはくれないんだろうな…」
知らずのうちに『溜め息』の原因となっているものをゼノは話していた。この言葉が最近頭の中を離れないのだ。
「カトリにとって僕は…唯の友達にしか過ぎないんだろうなって考えると…とても胸が痛くなる」
ゼノは拳を強く握っている。
(ゼノ君は気付いてるんだ…。カトリちゃんがホームズの事が好きなのを…。ゼノ君も私と同じなんだ…)
「ゼノ君の気持ち、わかるよ?」
「え?」
その答えにゼノは驚いた。予想していなかったからだ。
「私も、同じだから…。相手の人にとって私は唯の幼馴染み。しかもその人には他に好きな人がいるの。証拠は無いけど、見てたら解るっていう…。
私達って似てるよね?」
サーシャは弱々しい笑みを浮かべて言った。
さっきの笑顔とは程遠いものだった。
(やっぱりサーシャ王女って凄いな)
ゼノは正直にそう想った。彼女も自分と同じ様な悩みをもっているにも関わらず、それを周りに悟られないというところに感心した。
それに比べ、自分は明らかに『慰めてくれ』と周りに言っている様な態度だ。我ながら情けないと思った。
「うん。状況的には似てるね」
ゼノもそこには同意した。
「でもね、私はいつか想いは叶うって信じてるから、最後の最後まで、全ての希望が無くなるまで諦めないで頑張るつもり。だって運命は自分で切り開くものだもの。だから…ゼノ君も一緒に頑張ろ?」
「…うん。サーシャ王女は強いね」
正直に思った事を言った。しかし、それが間違いだったとすぐに気付く。サーシャの肩が少し震えている。
「強くなんか…ないよ?自分にそう言い聞かせてるだけ。ホントは苦しくて…切なくて…胸の奥がキュって締め付けられるように痛んで…今その人が側にいるなら抱きつきたいくらいだもの…」
一筋の雫がサーシャの頬を伝った。
「いつも…何するにしてもその人が頭の中にいて、何にも集中できないの。私じゃ釣り合わないって思って、何度も何度も諦め様としたけど、結局は諦めれなくて…」
「えっと…その…」
突然のウエルト王女の涙でゼノは大変困惑していた。ユニがホームズにいじめられて泣いてるのを慰めるというパターンはよくあったが、それとはワケが違う。
「あれっ?私なんで泣いてるんだろ…。ごめんね?いきなり泣いたりして」
ゼノの動揺で自分が涙している事に気付いたサーシャは涙を拭き、『てへっ♪』といつも通りの綺麗な笑顔を見せてくれた。
「その人は幸せ者だな」
「え?なんで?」
サーシャが首を傾げて問う。
「だってサーシャ王女にそれだけ愛されてるんだから、幸せでしょ」
「そ、そんな事ないよぉ」
サーシャは頬を赤らめ、照れている。
「応援してるよ。もし僕にできる事があったら力になるから」
ゼノは心から力になってあげたいと思った。自分と重なるという面もあるが、彼女には幸せになってほしいと思う気持ちが強い。ルカに対して申し訳ないという気持ちもあるが…。
「うん♪でも、その前に握手しよっ!」
サーシャはいきなり右手を差し出した。
「へ?」
予想外の行動にゼノは戸惑った。
「『片想い同盟成立!!』の握手だよ?」
先程の涙が嘘の様に、サーシャはいつものペースに戻っていた。
「あ、なるほど。じゃあよろしく」
サーシャの差し出した手を失礼のない様ゆっくり取った。
「よろしく〜♪」
ゼノとサーシャは握手をし、二人の間に片想い同盟が成立した。
ゼノはルカに対して大変申し訳なく思う気持ちもあるが、彼に対して優越感もある。
「私にも力になれる事があれば、ジャンジャンお願いしちゃってね?」
「うん。
ところで、サーシャ王女の好きな人って、誰?」
ゼノは唯一残っている疑問をぶつけてみた。
「そ、そ、それは秘密!!」
予想以上のリアクションだった。
「僕は言ったのに?」
「そ、それはぁ〜…そ、そうだ!ゼノ君!シリトリしよう!シリトリ!!」
「話題を変えない!しかもシリトリって!…で、誰なの?」
「そ、そういえばマルジュ君とメルって姉弟なの知ってた!?」
「知ってるよ!
ねぇ、同盟組んだんだから教えてよ。サーシャ王女の好きな人。僕も力になりたいし」
そこに、一人の少女の聞き覚えのある声が混じってきた。
「え〜!?サーシャちゃん好きな人いるの!?」
カトリだった。
いきなりの登場に二人はかなり驚いた。
ゼノは心臓停止寸前。
(あ、そうだ♪)
サーシャは何か良い事を浮かんだ様だ。いたずらな笑みを浮かべている。
(い、嫌な予感がする…)
瞬時にゼノはそう思った。
「あ〜っ!そういえばフラウと買い物に行く予定だったんだ!ほいじゃあ私、行くね!?」
サーシャは無理矢理話を終らせて、この場を離れ様とした。
「ちょっ、ちょっと!」
『何を白々しい嘘吐いてるんだ!』と言おうとした時、サーシャはウィンクした。おそらく…
『カトリちゃんと二人でお話するチャンス!頑張ってね♪』
という様な意味だろう。
(なっ!?まだ心の準備もできてないのに!)
今、ゼノの中は大混乱だった。しかし、そんなゼノを置いてサーシャは走り去った。
(どどどどうしよう…)
横目でカトリを見ると、サーシャの想い人を聞き出せなかった事を悔いているようだ。
「サーシャちゃんに好きな人がいるなんて知らなかった」
「う、うん」
久しぶりのカトリとの会話なので、随分緊張している様子。
「何かヒントとなる様な事言ってた?」
「幼馴染みとかって言ってた」
「幼馴染みかぁ…今度聞き出してみるね!」
カトリはガッツポーズをした。
相変わらずの可愛らしさに思わず目を奪われる。
「それよりゼノ、顔紅いよ?大丈夫?熱あるんじゃない?」
そう言い、カトリはゼノの額に手を当てた。その間ゼノの心臓は破裂寸前だった。
「ちょっと熱い…風邪かも」
名残惜しくも彼女の手が離れた。
「ううん。大丈夫だよ。それより…カトリと話してたい」
ゼノにとってこの言葉を言うのは、素手でドラゴンに突撃する以上に勇気を要した。
「ホント?私もゼノとお話したかったの。最近あまり話してなかったから…」
「うん」
「ゼノに嫌われたのかと思ってた」
「そ、そんな!なんで僕がカトリを嫌わなきゃいけないんだよ。僕は…カトリの事好きだよ?」
「ホント?私もゼノの事好き!
じゃあ、これからももっと話そうね?」
「うん!」



(僕の『好き』とカトリの『好き』は、全く意味の違うもの。でも、今はそれでもいい。
いつか、この想いが叶うなら…………)



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