12章 竜封じの策

 

サーシャの閃きをきっかけに、ウエルト内の騎士、兵士、貴族達は動きだした。
破壊竜の弱点を探す為である。
破壊竜倒さずして世界に平和無し、とまでロファール王は言っている。
現にその通りだ。
ちなみにこの前のグラムの一戦で、倒した盗賊の数はおよそ500。そして、この前レシ
エ達が倒した数を足すと、俺の考えではもう盗賊はいないのではないかと思う。
そうなると、もはや敵はドルムと破壊竜だけだ。
破壊竜さえ倒せば何とかなるのでは、と希望がもてる。
一方ヴェガとクリシーヌ、フラウ、ナロン、ライネル、ノートン、エステルにラケル、そ
してその弟のルカは、グラムを守りに行った。
この前の戦いで、生き残っているグラムの兵士のほとんどが負傷兵となり、守備が心細
い。
その為、ユトナ聖戦の英雄達に守ってもらう事にしたのだ。
彼等以外にも、王宮から騎士団およそ100名がグラムへ向かった。
破壊竜を使って空を駆けられれば終りだが、ヴェルジュからここに来るには、絶対にグラ
ムを通らなければならない。
もし、ドルムが単身で来たならば、数で応戦しようという作戦だ。
ロファール王がこんな大胆な作戦をするのは珍しいのだが、敵が敵だけに仕方ない。
そして、サーシャの護衛として俺とレシエ、セネト、エリシャが選ばれ、入浴とトイレ以
外は常に行動を共にしろとロファール王は命じた。
寝る時も5人一緒の部屋なので、何だか変な感じだ。
街に出て破壊竜の情報を訊き回るのもこのメンバーである。
別に問題はない。こいつらと一緒にいると楽しいからだ。
こんな呑気な事を言っている場合でもないのだが…。

「…それにしても、納得いかないわよね〜」
街で情報収集していると、エリシャがジトリとした視線を俺に送る。
「な、何が?」
「何が?って決まってるでしょ!
何であんたは街の人達にあんなに歓迎されるのよ!!」
「そんなの俺に言われても…」
俺が街を歩いていると、『戦神の息子、ジュノーン様』とか『巨人殺し(ジャイアント・
スレイヤー)のジュノーン様』とか、知らぬ間にいろんな異名で、英雄のごとく扱われ
る。
街娘からは花束や、手作りのお菓子をもらったり、握手を求められ、身分の高い女性から
は求婚さえされる事もある。
俺もホトホト疲れているのだ。
「そんなの仕方ないわ。今やジュノーンはウエルトの英雄だもの。
もう『破壊竜殺し』の異名をつけようとしている吟遊詩人もいるのよ?
ま、英雄様がいるんだから私達の勝利も安泰じゃない?」
レシエは無表情で言っているのだが、その表情は氷河の如く冷たく、俺を突き放している
様にも見える。
何だか皆で俺をいじめてないか?
「お、おい、レシエも何怒ってるんだよ」
「別に怒ってなんかないわ。
私もドルムの片腕であるブルーグを苦労した末に倒したのに、何故扱いがこうも違うのか
しらって疑問に思ってるだけよ」
エリシャに続き、レシエもジトリと視線で俺を見る。
「そ、それを怒ってるっていうんだよ」
「そうかしら?
あーあ、私達もわざわざ敵の本拠地に乗り込まなくても、ウエルトに来てればよかったわ
ね」
レシエは相変わらずな視線で俺を見る。
「そうだな。僕なんてブルーグに叩き回されて死にかけたのに評価無しだからね」
セネトも皆と同じ視線を送ってくる。
「…いや、あの…ゴメン!」
そして何故か俺が謝っている。
「別に謝ってほしくて言ってるワケじゃないのよね〜」
エリシャがまだ言う。
(こ、こいつら〜!)
そろそろ我慢の限界だ!
「だ、大体、サーシャだって『光の王女様』だとか言われてるし、俺と同じ様な扱いだ
ろっ!」
サーシャは求婚されること等はないが、男女共に握手を求めてきたりする。
「だって、私は本当に『光の王女』なんだもん」
(なら、俺の『巨人殺し』は嘘なのか?)
つい言い返したくなるが、ここで言い返すと俺は4人から集中攻撃に合うだろうと予想
し、やめた。
「そーよ。サーシャは本物なのよ?大体、魔神の力を借りないと何にもできない奴が何で
英雄なのよ!」
「そ、それを言うならレシエもだろっ!?」
「あら、私は実力で倒せたと思うけど…?」
とぼけて言う。
(嘘吐けっ!)
「それにジュノーンなんて、女の子にばっかりデレデレしちゃって、バッカみたい」
サーシャも冷たく言う。
「なっ!?俺はデレデレなんて…っ」
してないぞ!と言おうとした時、一人のおとなしそうな、背の低いセミロングの髪をした
可愛らしい少女に会話を遮られた。
「あ、ぁの…ジュノーン様ですよね?」
歳は14くらいか?サーシャより少し年下に見える。
しかし、俺はいつから『様』をつけられる様になったんだろうと最近よく思う。
「あ、ああ…」
4人は、そらきた!とでも言いたそうな表情をした。
(時が悪いっての!)
この少女に罪は無いのだが、恨んでしまう。
「あの、その、ぁ、握手…して頂けませんか?」
語尾が徐々に小さくなっていく。
顔を真っ赤にした少女が、震えながら手を差し出した。
(そんなに緊張しなくても…)
エリシャがニヤニヤして肘を俺の脇腹に入れる。
俺はそっと少女の小さな手を握った。暖かく、強く握ると壊れてしまいそうな手だった。
少女の顔は更に赤くなったが、とても嬉しそうな表情をしていた。
「あ、ありがとうございます!
よかったら…よかったら、このチューリップもらってくれませんか?うちで育てたやつな
んです…」
その少女は俺に赤いチューリップを手渡した。
赤々とし、とても綺麗だった。
「ありがとう」
その少女の瞳を見て、礼を言った。
少女は俺と目が合うと、急いで下を向いた。
「あ、あの、頑張ってください。勇者様…!」
そう言うと、少女は走り去った…。
その後、冷たい沈黙と視線が俺を襲った。
「あらあらあら、とうとう『勇者様』に格上げ?」
エリシャが攻撃してくる。
「やれやれ…僕だって一応カナン王子で、ガーゼル倒したのになぁ…」
セネトは空を仰いだ。
「魔神様様ね。女の子一人くらい魔神に分けてあげれば?」
レシエも無表情で、まんざら冗談でもない様に言う。
サーシャに助けを求める様な視線を送ると、プィッと顔をそっぽ向けられた。
「ちょっ、何怒ってるんだよ!」
「知らない!ジュノーンのバカ!!」
そう叫ぶ様に言うと、サーシャは早足で一人進んでいく。
レシエとセネトはサーシャの横に並んだ。
「何だっていうんだよ…」
川に行って石を投げたい気分だ。
「あら、もしかして知らないの?赤いチューリップの花言葉」
エリシャが立ち尽くしている俺に囁きかけた。
「花言葉?」
「そう。赤いチューリップの花言葉はね?
…『愛の告白』なのよ♪それを受け取ったって事は…♪♪」
ぽんぽんと肩を叩いて、エリシャは楽しそうにサーシャの後を追っていった。
「…………」
(って事は…俺は愛の告白を受け取った…?)
頭が真っ白になる。
「ご、誤解だっ!」
俺も急いでサーシャの後を追う。
(俺が花言葉なんて知るワケないだろっ!) 泣きたい気分だった…。
…………………
……………
………
「結局、なぁんにも情報なんて入らなかったよね」
夜になり俺達の5人部屋に戻り、サーシャは自分のベッドに腰を下ろした。
「まぁ…本にもなかなか載ってない事だから、あまり期待はしてなかったけど…」
レシエも同じ様に座る。
(…俺は無駄に疲れた)
愚痴を心中でいう。
女性に声をかけられる度に俺は皆にいじめられたのだ。
「…ちょっと遠いけど、明日はマルス神殿に行ったらどうかな?アフリードがもしかした
ら何か知ってるかも」
セネトが提案した。
アフリードとは、『レダの賢者』『六賢者の一人』『レダの雷光』など、数々の武勇と異
名を持ち、今は亡きエーゼンバッハをも越す魔導士と呼ばれている人だ。
エリシャがわずかに顔を歪めた気がする。
「それは良い考えね。
そうしましょう。
私達には時間は無いのだし、町ではあまり期待できないわ。
もし、アフリード様にも知らないと言われたら…絶望的ね」
レシエは苦笑を洩らしたが、とりあえず明日の目的は決まった。
話がまとまったところで、俺は花瓶の代わりになりそうな物を探し、水を入れて先ほど少
女からもらったチューリップを入れた。
「ジュノーン君…もしかして、マジであのコの愛を受け取る気?」
エリシャが信じられない、という表情を見せた。
「違うって!捨てるのも何だし、綺麗な花じゃないかっ!!
もうそのネタはやめてくれ!」
うんざりだ。
「へぇ〜…ジュノーン君って、ああゆうおとなしいタイプのコが好きなんだ?」
「だから違うって言ってるだろ!!」
確にちょっと可愛かったけど…。
「今、心の中で『確に可愛かったけど』って思ったでしょ?」
レシエがパリパリと俺が昼間に街娘からもらったお菓子を食べながら言う。
「思ってない!!」
(勝手に人の心を読むなっ!)
そして、エリシャ達を見ると…。
「あ、ぁの、ジュノーン様ですよね?」
エリシャが昼間の少女を真似て、もじもじしながらセネトに言う。
「あ、ああ…」
セネトも俺の真似をする。
「あの、その、ぁ、握手…して頂けませんか?」
エリシャがオーバーに震えながら手を差し出し、セネトがそれを握ろうとした時、俺の脳
内の線がプチッと切れて、手元にあった枕をおもいっきりセネトの顔めがけて投げつけ
た。
「むごぁっ!」
狙いは違わず顔面にヒット。
「な、なにをするんだ!僕達が昼間のシーンを忠実に再現してあげてるというの
にっ!!」
「するな!というかお前弱いくせに調子に乗るなよ!?」
「何だと!?魔神の力がなければただの腰抜なくせに!」
「あ?テメーやんのか!?面白ぇじゃねーか!表出ろ、表!!
くちゃくちゃのミンチにしてハンバーグにしてやるよ!」
「おー、上等だ!やってみせてくれ!他力本願な自称・勇者クン!!」
「いつ俺が自称した!?」
もうここまで来るとノリだ。
セネトもそうだろう。
サーシャはそんな俺達のやりとりを見て、吹きだした。
レシエも笑いを堪えている様子、エリシャに関してはバカ笑いしている。
「ジュノーンもセネト王子も面白すぎだよぉ」
サーシャは涙を拭きながら腹を抱えている。
「そうよぉ。明日お腹が筋肉痛になったらどうしてくれるのよ!」
エリシャはワケのわからないところで抗議してくる。
「ちょ、ちょっとアナタ達…これから破壊竜と戦う気あるの?」
レシエは笑いを必死に堪えながら言った。
「全っ然ナイ!」
俺達は声を揃えて言った。
レシエも限界を越え、とうとう笑った。
それでまた新たな笑いが起こる。

その日は夜遅くまで談笑した。
こんなに笑ったのはいつ以来だろう。       しかし、苦労続きだったのだから、たまに
はこんな楽しみがあってもいいだろうと俺は思う。
この仲間達と、ずっとこうやって笑い合ってたいと心から俺は願った…。



 
 
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