俺達はアフリードが消えた後、すぐにロトの森に向かった。 着くと、アフリードが待ちくたびれた表情をしている。 「うわぁ…凄い」 サーシャの声に気付き、彼女の視線を追ってみるとそこには空間の中に穴があった。 穴の中はどこか別の場所を写し出している。 「これが…エルフの住む所への道ですか?」 レシエの質問に、アフリードは黙って頷き、続けた。 「…では、行きましょうか。 もしかしたら歓迎されるかもしれませんから、一応気を付けてくれまたえ」 アフリードは皮肉を込めて言った。 おそらく、歓迎=攻撃されるという意味なのだろう。 (…やれやれ) 無意識のうちに溜め息を吐いてしまう。 「じゃあ、一番手サーシャ、行っきま〜す♪」 サーシャは機嫌良く空間にある穴に飛込んだ。 「…あのコのアレ、何とかならないのかしら?」 レシエもサーシャのあのテンションに少し呆れている様だ。 (訊かれても困るんだけどな…) 俺は苦笑を洩らした。 「明るい女性は良いものだよ。 レシエも前よりは明るくなったが…君もまだ若い。もっと彼女を見習ってはしゃいだらど うだい?」 ニヤリと笑って、彼もサーシャの後を追った。 残された俺とレシエは無意識に顔を見合わせた。 「…お前がはしゃいでるところなんて、想像できないな」 「勝手に想像しないでくれるかしら?気色悪いから」 溜め息を吐きながらレシエもアフリードに続いた。 「…ごもっとも」 彼女の言い分に納得し、俺もそれに続く。 …………… ……… … その空間の向こうには、まるで別世界だった。 青々とした綺麗な木が生い茂り、エメラルド色の湖がある。 森という事には変わりないが俺達が住むそれとは異なり、神秘的というか、心が洗われる 気分になる。 「綺麗…」 サーシャがエメラルド色の水を掬った。 当然、掬うと透明である。 「空気も澄んでいて凄く気持ちいい…」 レシエが体を伸ばして深呼吸した。 しかし、俺がリラックスしようとした時…いきなり火球が飛んできた。 (なっ!?) とっさにそれに気付き、ステップして避けた。 火球が飛んできた方向をキッと睨む。 そこにはとがった耳を持った髪の長い女性と、男性が10人ほどフワフワと宙に浮いてい る。 華奢な体つきで、見慣れない服を着ている。 それはおとぎ話の絵本でみた記憶が遥か昔にある姿だった。 「…本当にいやがったよ…エルフが」 巨人や破壊竜がいるならエルフも居ても不思議じゃないな、と半分ヤケクソな気分になっ てしまう。 「汚らわしい人間共よ! 即刻我等の森から去れ!!」 エルフの女性はそう叫ぶと、手に再び魔力を集めた。 他のエルフ達も同じ様に魔力を集める。 「やれやれ…大した歓迎ぶりじゃないか」 俺はそう呟いて『魂喰い』を鞘から抜いた。 「少し痛い目に合わしてあげた方がよさそうね」 レシエも『魔風槍』を構える。 「待ちたまえ。そんな事してしまうと話すら出来なくなるぞ?」 アフリードが制止しようとする。 「じゃあ、黙ってあの魔法を食らえと?」 「そういうワケではない。 ここは私に任せてくれ」 『レダの賢者』は、咳払いをすると、交渉し始めた。 交渉と言っても、単に長老か部族を仕切る者と合わせてほしい、との事だ。それを回り口 説く、もっともらしい理由で言った。 しかし、エルフ達は聞く耳を持たなかった。 「貴様等の様な下等な生物を長老に合わせるワケには行かぬ…!」 「ちっ、思っていたよりずっと頭の堅い奴等だ!」 アフリードは叱咤する様に言う。 「何とかしてくれるんじゃないのかよ…」 肝心な時に役に立たない。 「我等の命令に従わぬならば…死ね!!」 そう言うと、その場にいた全員のエルフが火球を放とうとした。 「おい、どうする?」 サーシャを俺の後ろに立たせ、レシエに耳打ちした。 「さぁ?私が訊きたいくらいだわ」 とぼけた返事が返ってくる。 倒すだけなら簡単だ。 俺とレシエの力で一掃してしまえばいい。 しかし、それでは何のためにここに着たかわからない。 (どうする?) 俺が相手を傷付けずに退ける方法を必死に思案していると、サーシャがいきなり前に出 た。 「さ、サーシャ!?危ないだろっ!!」 「だいじょーぶ。サーシャにお任せです♪」 サーシャは機嫌良く敬礼する様なポーズをした。 その時エルフ達は火球を放った。 「サーシャ!!」 俺は血を吐く様に叫んだ。 俺は左掌に魔力を集中させ、それをエルフ達に向けた。 (ふざけんなよ…!!) 勿論本気で戦うつもりだ。 サーシャにもしもの事があればそれこそ大変だ。 エルフとの話なんて関係無い。 「待ちたまえ、ジュノーン君。 『光の王女』の本領発揮だよ。彼女を見てみなさい」 俺の殺気に気付いてか、アフリードは俺を制止させた。 そしてサーシャを指差した。 彼女の表情からはさっきまでの笑顔が消え、真剣な眼差しでエルフ達を見た。 そして目を瞑り、神に祈る様に胸前で手を合わせた。 すると、光の壁が俺達を優しく包み込んだ。 エルフ達の放った火球は俺達に届くことなく、光の壁にあたると消えた。 まるで、ロウソクに水をかけたみたいに。 しばらく時が止まった様に誰も口を開かなかった。 目の前に起こった奇跡を見つめていた。 「ふぅ…疲れた」 相手が攻撃してこないとわかると、サーシャはこちらを振り向き、微笑んだ。 「ね?大丈夫だったでしょ?」 「お、おい…お前、いつからあんな凄い事できる様になったんだ?」 おそらく、神聖魔法の事は彼女は知らないはずだ。 「今」 きょとんとして答える。 「い、今!?」 「うん。なんだか出来そうな気がしたの」 「気がしたって…失敗したらどうするつもりだったんだよ!!」 思わず怒りを覚えてしまう。 以前、ウエルトを解放する時に自分を大切にしろって俺に説教したのは誰だと思ってるん だ? 「ジュノーンが守ってくれると思ってた♪」 俺の膝がガクッと折れる。 「てへっ♪」 可愛く笑えば許してもらえると思っているらしい。 「…呆れた。失敗した時、あの状況で私達にどうやって助けさせるつもりだったのかし ら?」 レシエも溜め息を吐いている。 「心配かけてごめんね?でも、絶対に失敗しないと思ったの」 そういえば、あの時のサーシャは自信満々だった。 どうやら『光の王女』として完全に覚醒した様だ。 「予想以上だよ、サーシャ王女。あんな防御壁は私でも作れない」 アフリードはポンとサーシャの肩を叩いた。 サーシャは照笑いしている。 しばらく黙っていたエルフ達が口々に言い出した。 光の王女・マーファの帰還だ、と。 「マーファ様、申し訳ありません。私達の無礼をお許し下さい」 さっき攻撃してきたエルフ達は皆地に降りて、頭を深々と下げた。 「へ?マーファって、私の事?」 サーシャが焦ってアフリードに訊いている。 「先代光の王女だよ」 サーシャはそれを聞いて、なるほど、と呟いて頷いた。 そして、エルフ達に微笑みかけた。 「皆さん、頭を上げて下さい。 私はマーファではございません」 その言葉に、周りがざわざわとした。 「しかし、彼女と私が全く無関係…というワケでもありません」 エルフ達はサーシャの話を聞く為、口を閉じた。 辺りにサーシャの声しか聞こえない。 「なぜなら、私はマーファの生まれ変わりだからです。名はサーシャと申します」 それを知ったのはつい最近ですが、と照れ笑いをして付け足し、ペコッと頭を下げた。 彼女の答えに安心したエルフ達は、再び歓喜の声を上げる。 「それで、私達は長老様にお会いしたいのですが、よろしいですか?」 サーシャは笑顔で尋ねた。 「はい、勿論です!どうぞ、こちらへ」 かしこまって女性のエルフが俺達を案内する。 もはや俺達を敵視する奴はいなかった。 サーシャは近くにいるエルフ達皆から握手を求められている。 「さっきまでとはえらい違いだな」 俺達三人は少し離れて、それを見ていた。 「そうね。サーシャ王女は普通の王女としても素晴らしいわ。そうでなければ、これほど までエルフ達の心を動かせないわ」 「そうだね。一番最初に会った時に私も思ったが、彼女には英雄性というのがある」 (確かに…) サーシャといると、落ち着いたり、勇気が出たりする。それが彼女の持つ英雄性なのだろ う。 「その英雄性は、ジュノーン君も持っていると私は思うのだがね」 『レダの賢者』は予想外の事をマジマジと言った。 俺は思わず吹き出してしまった。 「ははっ、それは有り得ないな。 俺、嫌われ者だし」 レシエの方を見て言った。 彼女ならソフィア時代に俺がどれだけ嫌われていたか知っているはずだ。 「…今の貴方と、昔の貴方は別人よ。 今、ウエルトで貴方を憎む人はいないでしょ?」 少し寂しそうな瞳をしてレシエは俺の視線に答えた。 「どうかな?必要な時だけ英雄を祭って、必要なくなったら掌を返すんじゃないか? 俺は蔑まれているから」 「また、そんな言い方を…」 レシエは困った様な顔 になった。 (レシエには、こんな愚痴をよく言ってしまうな) サーシャには言った事がない。 困惑しているときのレシエが愛らしいと思えるからかもしれない。 眉の端が僅かに下がって、大人っぽい彼女に少女の面影が現れる。 (それと…否定してもらいたいのかもな) ジュノーンは蔑まれてなんかいない、と言ってほしいのかもしれない。 (俺は情けないな) 自嘲の笑みを浮かべた。 「…君の気持ちはよくわかるよ」 アフリードは俺にそう言った。 真剣な眼差しで。 どういう事だ、と問い返そうとした時、長老の家に着いた…。 |