13章 英雄達の戦い

 

俺達はエルフ族の里を後にして、アフリードと共にウエルト王宮へと戻ってきた。
どうやらまだグラムの方も王宮も攻められていないらしいとの事で、俺は安心を覚えた。
今は休みたい。
今日一日だけで色々有りすぎた。
破壊竜の呪いを解くだの、心を掴むだの、俺が英雄だの…今まで一度も考えた事がない事
や、真実が俺を一気に襲ったのだ。帰りの途中、アレスの上で何度寝そうになった事か。
寝るという人間としての当然な行為は今の俺にとって、千金より価値があると思う。
早く眠ろうと思い、ロファール王への報告はレシエに任せた。
アフリード、サーシャと共に部屋へと向かった。
…………
………
……
「ア、アフリード様!?」
アフリードの姿を見て、エリシャが驚きの声を上げる。
「エリシャもいたのか。久しぶりだね」
エリシャにしては珍しく、かなり動揺している。
しかし、今の俺にとってそんな事はどうでもいい。
(俺は寝る)
鎧をガチャガチャと無造作に外した。
いつもはちゃんと整えるのだが、今日はしない。
する余力がない。
「おやすみ」
エリシャ達は何か話し込んでいる様で、返事はくれなかったが、サーシャは答えてくれ
た。
「もう寝るの?」
「うむ。邪魔するなら例えサーシャでも許さん」
「いや、邪魔しないけどさ…顔くらい洗ったら?」
「……そうだな」
俺は素直にその指示に従った。
そういえば冷や汗をかいたからな。汗を流さず寝るなんて、清潔感漂う俺としては許せな
い。
洗面所に向かい、顔を洗った。
しかし、そうなると全て洗いたくなるのが俺の性格。
というワケで、体を洗い流す事にした。

綺麗になった体を拭き、まだ夕方だが夜着に着替えて部屋に戻った。
「あ、結局水浴びたんだ」
サーシャが戻ってきた俺に声をかけた。
「うむ。あまりにも気分爽快過ぎて、身体中の穴という穴から薄桃色のエクトプラズムが
放出されてしまいそうだぁっ!!
…という事で、おやすみ」
俺はそのままベッドに潜り込んだ。
「なんだか意味わかんないけど…おやすみ、ジュノーン」
彼女の優しい声のあと、俺は眠りに落ちた。
グラムが戦場と化している事も知らずに…。



「おい…敵が来る場合、ドルムとかいう奴が独りで来るんじゃなかったのか?」
相変わらず無表情のヴェガが、唖然としているナロンに訊いた。
「し、知りませんよ!そんな事僕に言われてもっ」
今、ユトナの英雄達は信じがたい光景を目にしていた。
グラムの街道が埋まるくらいの大軍とウエルトの騎士達が対峙しているのだ。
敵は、イストリア騎士にエリアル騎士、そして…ヴェルジュの騎士と見られる人物もい
る。
その騎士達は何れも顔を紫色に染めていた。
ユトナ聖戦の英雄達は、それを少し離れた所から眺めている。
「う、嘘でしょ…?」
フラウは恐怖に満ちた表情をしている。
彼女は以前、彼等と似たような奴等とブラードで戦った事がある。
「何だってんだ?あの気色悪い奴等は」
王宮騎士隊長のライネルがサリア天馬騎士に訊いた。
「あの人達は操られてるのよ。
たぶん…ドルムに」
「じゃあ、あの騎士達は…」
「うん。鎧の紋章通り、本物のイストリア、エリアル、そしてヴェルジュの騎士達だよ。
操られてしまえばバーサーカーと同じ。
手を抜いて勝てる相手じゃないと思う。
ジュノーン君なら別だろうけど…」
フラウは冷静だった。
今、ここにいる中で彼等と戦った事があるのは自分だけ。
いつもみたいにあわてふためいているワケにはいかないのだ。
「くっ…援護しなければ!」
エステルが剣を抜いた。
それと同時に皆武器を構えた。
「待って!あの人達は悪くないのよ!?」
「じゃあ、どうすれば…!?」
ヴェルジュの聖騎士は苛ついた様に訊いた。
「たぶん…ドルムを倒せば呪いが解けると思う」
ここにはブラードみたいに醜悪な像はない。
ならば本人が近くにいる、とフラウは考えたのだ。
「ふっ、簡単な方法があるんじゃないか」
ヴェガはニヤリと笑って言った。
しかし、それを不満とする声が彼等の後から聞こえた。
「…簡単?余を倒すのがか?」
皆が一斉に振り向いた。
そこには魔導士にも剣士にも見える格好をした人間がいた。
フラウは彼を一度見た事がある。
先日行われた勇者大会の覇者だ。
「…お前がドルムとかいう気狂い野郎か?」
警備隊長のノートンが不用意に近寄った。
今、彼とドルムの距離は三歩ほどだ。
「いかにも、余がドルムだ。気狂いというのは余計だがな」
「そうか?」
ノートンはドルムを見下ろす様にして睨んだ。
体格差は歴然。
筋肉質で重騎士のノートンに、女性にも見えるか細いドルム…一見、この二人が勝負をし
たらノートンの圧勝ではないか、とフラウは思った。
「サーシャ王女を渡すならば、貴公等には手を出さないでやるが…どうかな?」
ドルムは冷笑して訊いた。
「…『渡す』と言うとでも思ったか?」
ノートンは剣を強く握り絞めた。
殺意がみなぎっている。
「思わん。何より、余は貴公等を殺したくてかなわんのだ…」
その言葉にハッとし、ノートンは構えた。
ドルムの殺気が一気に解放されたのだ。
フラウはそれに畏怖さえ覚えた。
先日、彼がジュノーンと戦っていた時の瞳ではない。
あの時のドルムには、まだ優しさというモノが瞳から感じた。
しかし、今はそれが感じられない。
感じられるのは圧倒的な殺気…。
今、ユトナ聖戦の英雄達が対峙している男はまさに鬼神なのだ。
「償え」
ドルムがそう呟いた時、ノートンは腹の辺りが焼ける様に熱くなったのを感じた。
口からは赤い液体が溢れてくる。
見てみると、鎧の隙間には紅いレイピアが貫通していた。
そこからは血が蒸発している。
「な…に?」
ゆっくりドルムはレイピアを彼の体から抜いた。
鮮血が鎧の間から吹き出す。
ノートンはズルッと前のめりに倒れた。
「余の友を殺した罪だ。
余にたてつく奴は皆殺しにする」
ドルムは紫色の顔をした騎士達の方を向くと、叫んだ。
「我が駒どもよ、余に逆らえし者を殺せ!」
彼がそう言うと、駒と呼ばれた騎士達がウエルト兵に斬りかかった。
「さぁ、来い。ユトナ聖戦の英雄達よ…!
余の怨みはこんなものではないぞ…!?」
紅連のレイピアを構え、冷笑した。
「よかろう。貴様の怨み、受けて立つ」
ヴェガはシュラムを構え、一人で斬りかかった。
他の者がいかなかった理由は『様子見』である。
ヴェガはこの中で最強クラスの人間。
その彼がどこまで戦えるか、というのを見る為だ。
その間にメルが悶絶しているノートンに駆け寄り、癒しの杖で傷を塞いだ。
(傷口が焼けてる…)
メルはノートンの傷を見た時、まず驚いた。
刺された部分が火傷していたのだ。
治療を終えるとノートンは起き上がり、
「ヴェガ、気を付けろ!そいつの剣は傷口を焼くぞ!!」
ヴェガに警告した。
「ほう。そいつは変わった武器だな。覚えておこう」
『シュラムの死神』はニヤリと笑い、剣を振るった。
しかし、ヴェガのそれは空を斬る。
「…っ!」
ヴェガは表情を変え、次は本気で斬り込んで行った。
何度も何度も…。
一般人にはヴェガの剣筋はおそらく見えない。
しかし、当たらない。
ドルムは軽いフットワークで見事にかわす。
「貴公もなかなかの実力だ。
しかし、余には及ばぬ」
左掌をヴェガの腹に当てると、ドルムは何やら呟いた。
ヴェガはとっさに後に飛んだが衝撃波の様なものが彼を襲い、吹き飛ばされた。
「うっ!」
ヴェガは壁に叩き付けられた。
彼はこんな魔法は経験した事がない。
「ふっ…剣士よ。後に飛んだのは正解だったぞ。
飛んでいなければ肋は粉砕されていたからな。
貴公が今立っている事が、貴公の強さの証だ」
再びドルムは冷笑した。
動かなければマズイ、と瞬時にロジャーは判断し、皆に指示をだした。
「メルはヴェガの回復を。
それ以外の全員で攻めるぞ!」
全員が頷いた。
まず、弓の女神とその弟がドルムに向けて矢を放つ。
しかし、ラケルの矢は剣で払われ、ルカの矢は指で摘む様にして取られた。
「く、クソッ!」
ルカは舌打した。
こんな塞がれ方をしたら、弓使いとしては恥以外のなにものでもない。
そしてヴェルジュとグラムの聖騎士が、黄金騎士が、天馬騎士が、そしてウエルトの王宮
騎士隊長等がドルムに殺到してゆく。
ドルムは古代の言葉を何事か呟いた。
「おい、何か魔法を使ってくるぞ!!」
ヴェガはメルの治療を受けながら警告した。
しかし、それが終らぬうちにドルムの全身から衝撃波が放射された。
ドルムに斬りかかろうとしていた仲間達が、ヴェガと同じように吹き飛ばされた。
「ふっ…ユトナ聖戦の英雄が揃ってこんなものか…!!
ジュノーンはまだ余を傷付ける事が出来たぞ!!」
「黙れっ!」
すぐさま起き上がったナロンと治療を終えたヴェガが挟む様に攻撃を仕掛けた。
即席の連携攻撃とは思えないほど見事な攻撃だ。
しかし、ドルムは一本の剣でそれを防いでいる。まだ彼には余裕があるように思えた。
「おい!どうすればコイツを倒せるんだ!?」
ドルムの攻撃を、紙一重でかわしながら、ヴェガが怒鳴った。
「そんなの私達に解るワケないでしょう!?」
フラウが皆の言葉を代弁して大声で言い返す。
「…それもそうですね」
ヴェガとナロンは一瞬、顔を見合わせ、そして苦笑した。
さすがにこの両雄はよく戦っているが、彼等はジュノーン達の様に特別な力を持っている
ワケではない。いつか隙を見せて攻撃をまともに食らうだろう。
「一旦引きますか?」
「そうだな」
ナロンの案に賛成し、二人は一旦後へ下がった。
「なんだ、もう終りか?」
ドルムはつまならさそうに言った。
「ちっ…マジでヤバいな」
ライネルが呟いた言葉は、皆思っていた事だった。
そして、彼等は戦に夢中で気付いてなかった。
先程、3対6枚の翼を持つ破壊を定めとする古竜が、グラムの上を通りすぎた事を…。



 
 
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