グラムの森では歓声が響いている。
今まで誰もが手も足も出なかったドルムが、地面に平伏しているのだ。
もっとも、グラムの森の一角は吹き飛んでしまっているのだが。
「バカな…!これほどの力があるとは…!!」
ドルムは剣を杖の様にして立ち上がった。
「我は力を抑えて今まで戦っていた。
汝はそれにも気付かなかったのか?器の小さい男よ」
破壊竜は嘲笑う様に言った。
今まで操られていた仕返の様に見える。
もっとも、破壊竜には力を抑えて戦う事ぐらいしか反抗のしようがなかったのだろう。
「ククク…なるほど。
よく考えれば、破壊竜は邪神の力に相当すると言われていたな。
あの程度の力が邪神と同等なハズがない…」
ドルムは冷笑を浮かべている。
(なんでそんな余裕があるんだ?)
ジュノーンは思った。
はっきり言えばドルムの負けは確実だ。生きては帰れまい。
それなのにドルムの表情は余裕に満ち溢れている。
「ふっ…余の負けだ」
ドルムは剣を地面に刺した。
(降伏するのか…?)
「…勘違いするな。
負けは負けだが、余が負けたのは破壊竜との力勝負で、だ」
「……?」
「なに、簡単な事だ。
余が勝つにはこうすれば良い!!」
言うとドルムは両手を破壊竜の方へ向け、何やら呟き始めた。
それと同時に破壊竜が苦痛の悲鳴を上げた。
「どうした!?ジュリアス!!」
ジュノーンは叫ぶ様に新しい相棒に訊いた。
(おのれっ…また我に洗脳の呪文を…!!)
相棒の意思がジュノーンの脳内に伝わってきた。
もはや喋る事も出来ない様だ。
「させるかよ!」
『魂喰い』を抜き、黒き死仮面はドルムに斬りかかろうとした。
しかし、ドルムは片手をジュノーンに向け、衝撃波を放った。
「…っ!?」
ジュノーンはドルムの
魔法を見るのは始めて故、まともに食らいレシエ達と同様に吹き飛ばされた。
「邪魔はさせぬぞ」
そして一言二言呟くと、辺りにスケルトンやらゴーレムというモンスターが多量に現れ
た。 
「杖無しで召喚も出来るのかよ…!」
叱咤する様にジュノーンは言い、地面を殴った。
「…おい、ナロン。まだ戦えるか?」
苛ついた心を落ち着ける為、一度深呼吸した。その後振り向き、黄金騎士に訊いた。
「勿論です。ヴェガさんも大丈夫ですよね?」
「無論だ。この程度の魔物に遅れはとらん!」
ヴェガは言い放つと再びシュラムを抜き、スケルトンに斬りかかった。
ユトナ聖戦の英雄達が魔物程度に遅れを取るはずがない。
しかし、聞こえたのは乾いた金属音。
ヴェガの閃光の様な剣をスケルトンは盾で受け止めたのだ。
「な、なんだと!?」
そしてすぐさまスケルトンの反撃。
ヴェガはそれを紙一重でかわした。
「たかがモンスターと言っても甘く見ない方がいいぞ?
召喚魔法とは、術者の魔力によって強度が違ってくる。
そこらの祈祷師と余の魔力では桁が違う」
ドルムがそれを見て嘲笑した。
言葉通り、スケルトンは強かった。
あの『シュラムの死神』という通り名で恐れられているヴェガがてこずっているのだ。
並の強さではない。
「ちっ…舐めるな。化け物め」
ヴェガは唾を地面に吐いた。
そしてワンステップで相手に接近すると、地面を蹴り上げながら斬りつけた。
『飛竜の技』だ。
スケルトンは糸が切れた人形の様にバラバラと地面に砕れ落ちる。
しかし、ヴェガに休む間は与えられなかった。
次なるスケルトンが今度は数体、一気にかかってきたのである。
ナロンは剣をジャベリンに持ち代え、ヴェガを助太刀しに行った。
そしてジュノーンの方にはゴーレムが数匹やってきた。
「こんなデクノボーに俺の足止めが務まるとでも思ってるのかよ…!」
右手に『魂喰い』を持ち、先頭のゴーレムの頭に剣を叩き付けた。
その頭は粉砕し、行き場を無くした体がふらふらと倒れる。
次にジュノーンはその横にいるゴーレムの腕を斬り落とし、人間でいう心臓部分を貫い
た。
「アストラルドレイン…!」
呟くと、ゴーレムの体は破片と化して砕け散った。
魂を全て奪い、相手の体に瘴気を送り込む闇魔神の技だ。
もっとも、ゴーレムに魂があるのかは謎なのだが。
そして振り返り様に後にいたゴーレムの足を斬り落とす。
ゴーレムは片足だけでは巨体を維持できず、手をばたつかせながら倒れた。
(残り4匹か…)
横目で敵数と位置を確認した。
「黒き雷よ…蜘蛛の巣となり、敵を滅ぼせ!」
呪文を唱えると、ジュノーンの足元から黒い雷が彼を中心として蜘蛛の巣状に地面に広
がった。
ゴーレム達は奇声を発して苦しんでいる。
その大きな体からはプスプスと煙が出始めていた。
電撃により、焦げているのだ。
その奇声が止んだのは間もない事だった。
ゴーレム達は全て黒焦げになり、絶命した。
ジュノーンはそれを確認すると、地面に膝をつき、咳き込んだ。
これは『デッドリー・ネット』を応用した闇魔神の中位魔法『滅砕陣』。しかし、彼の体
はまだこの技に耐えれる程強くはなかった。
「へっ…どーよ?
このジュノーン様を舐めてっから……」
こうなるんだ、と見下して言おうと思ったが、ジュノーンは言葉を失った。
ドルムは更にモンスターを召喚していたのだ。
数はおよそ50。
それはまるで城壁の様にジュノーン達の前に立っていた。
「言ったであろう?邪魔はさせない、と」
少し息を切らせながらドルムは破壊竜の方へ向き直り、洗脳の呪文を唱え始めた。
何とも言い難い破壊竜の悲鳴がグラムの空に響き渡った…。

「…おい。俺達も手伝わないか?」
一人のウエルト兵がエリアルの小隊長に話しかけた。
「…そうだな。我々が敵う相手では無いにしろ、このまま見てるだけでは居心地も悪い。
仲間の仇も取ってやりたいしな…」
小隊長は自分の目の前で死んだ若き上官の顔を思い浮かべた。
そして、周りを見回した。
周りの兵士達は無言で頷く。
「命が要らぬ者に告ぐ!
ジュノーン殿が心置き無く戦える様、あの化け物共は我等が倒すのだ!!
命が要らぬ者は我に続け!!!」
高らかに剣を空に向けてエリアル小隊長は叫び、先陣を切って城壁の様にそり立つモンス
ターの中へ飛込んで行った。
その言葉に続いて、ウエルトやヴェルジュにエリアル、そしてイストリアの騎士達がモン
スターを倒さんと気合いの声を張り上げ、殺到していった。
「バカが!」
ヴェガは血を吐く思いで言った。
たかが魔物とはいえ、彼等が叶う相手ではないのだ。
見る間もなく、兵士達は返り討ちにあっている。
「下がってください!」
ナロンが叫ぶ。
しかし、号令をかけた小隊長は涙しながらそれに反論した。
「お断りします、ナロン殿!
見てるだけの我々だって辛いのです!!
力が無いから、見てればよいのですか!?我々は操られて貴公の仲間を殺した!
こんな生き恥じを晒すくらいなら、一太刀でも魔物に入れてジュノーン殿の突破口を作り
たいのです!!」
そう言うと、エリアル小隊長は気合いの声を上げてゴーレムに斬りかかった。
「ジュノーンさん!」
ナロンが悲痛な目を向けた。
しかし、彼にもどうしようもなかった。
ジュノーンはこの信頼に答えれない自分が情けなかった。
もし彼等がモンスターを倒せたとしても、ドルムに勝つ自信が無かったからだ。
「情けない英雄だな…」
ジュノーンは自嘲の笑みを浮かべた。
「でも、まぁ…やれるだけやってみるか」
チラッと今は木にもたれて眠っているレシエの方を見た。
(まだあの公女様ほど俺は無茶してないワケだしな!)
心中で嫌味を言いながら、ジュノーンもモンスターの群れの中に飛込んでいった…。

(ジュノーンさんの動きが明らかに鈍い…!)
ナロンはスケルトン数体を相手にしながらジュノーンを見て思った。
鈍いといっても、自分達よりは圧倒的に速いのだが、あの黒雷を多用している事で動きは
確実に鈍くなっている。
そして、焦っている。
一体一体が強いので、なかなかナロン達でも倒せないし、各国の騎士達の数は確実に減っ
ている。
先程のエリアル小隊長もゴーレム3体を葬る等、己の力量を遥かに越えた功績を上げたが
疲れて動きが鈍ったところをスケルトンに首を撥ね飛ばされた。
惜しい人物を死なせてしまった、とナロンは後悔した。
見たところ、20半の歳で小隊長。彼なら数年後には素晴らしい将軍になっていたに違い
ない。
「消え失せろ!」
ジュノーンの怒声が辺りに響くと、また蜘蛛の巣模様の黒雷が地面に広がり、数体のゴー
レムが黒焦げになり、倒れる。
しかし、それと同時にジュノーンも地面に片膝を着いて咳き込む。
それを見たスケルトンは、背後から斬りかかった。
ジュノーンはそれに気付いている様子は無い。
(危ない!)
ナロンは手にあるジャベリンをスケルトンに投げた。
狙いは違わず投げ槍は見事にスケルトンの頭蓋を砕いた。
ジュノーンはサンキュ、と短く礼を言う。
「それ以上その魔法を使わないで下さい!」
ナロンは鞍にある剣を抜き、咳き込んでいる友人に警告した。
それと同時に、彼の脳内に剣からも警告の意思が伝わってきた。
『我も同感だ。このままではファラリスの力を持つ娘と同じ道を辿るぞ?』
魔剣『魂喰い』に宿う闇魔神カーディスである。
彼もまた、ジュノーンにとっては破壊竜と同じく相棒みたいなものだ。
(うるせぇよ。それよりもっと強力な魔法は無いのか?こいつらを全員殺せるくらいの
…)
『無い』
闇魔神の返事はジュノーンが言い切る前に返ってきた。
『上位魔法ならまだまだあるが、今のお前では使えん』
(冷たい奴だな…)
ジュノーンは皮肉を込めて言った。
しかし、それは弱き自分に向けられた怒りだった。
(ジュリアス、もう少し耐えてくれ!)
(……承…知…!!)
濃血色の愛竜・ジュリアスは少し間を置き返事した。
よく耐えてくれている。しかし、ジュノーンには助けてやれないでいる。それが憎かっ
た。
「打つ手無し…だな」
ヴェガが息を切らせてジュノーンの横に立った。
諦めてはいけない。
しかし、そう思わずにはいられなかった。
それを嘲笑うドルムの声が、モンスターの壁越しに聞こえてきたのだった…。


 
 
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