4章 破壊竜推参。そして捕われるサーシャ…

 

「最悪ね…」
レシエ公女は呟いた。
「…でも、少しは現実味が出てきたでしょ?」
しかし、サーシャも俺も返事をする余裕は愚か、身動き一つ出来なかった。
これが畏怖というのだろうか。
「な、何よ…コイツ。クラニオンなんかよりよっぽど迫力あるじゃない…!」
フラウはやっとの思いで呟いている様だ。
破壊竜は大きく咆哮した。
エリアル騎士達はそれによって全員悲鳴を上げて逃げ出した。
「くっ…僕達も逃げた方が良さそうだな…!」
セネト王子は苦笑した。
(気に入らないが…そうするしかないな)
俺は硬直しているサーシャの手を引き、後方へ走った。
しかし、さすが破壊竜と言うべきなのだろうか。
3対6枚の翼を上手く使い、物凄い速さで空を飛んで俺達の先回りをした。
俺達の前にいたエリアル騎士達は、大半が最初の炎のブレスで吹き飛ばされていた。
そして、エリアル騎士全員を一瞬で殺し切ると、次は俺達に視線を向けた。
「次は俺達らしいな…」
レオンハート公が顔を引きつらせた。
(ちっ…やはり最善の策は俺が盾になるしかないか…)
「セネト王子、エリシャ!サーシャを頼む!」
「ちょっと…ジュノーン君、何するつもりよ!!」
エリシャが叫んだ。
「俺が食い止める。その隙にエリアル洞窟に入れ!」
しかし、俺の決死の作戦にウエルト王女は猛反対する。
「ジュノーン、やめて!どうしていつもそんな無茶ばっかり…!!」
サーシャが俺の腕を強く掴んだ。
「俺は時間を稼ぐだけだ。アレとまともに勝負するつもりなんてない。
それに…今死んだら一緒に花火見れないだろ?
俺は死ぬつもりなんてないから、手を離してくれないか?」
サーシャは諦めた様にゆっくり頷き、俺の手を離した。
そしてセネト王子はサーシャの手を引き、エリシャ達と共に物陰に隠れた。
「貴方はこういう役が好きなの?」
レシエ公女が呆れた顔をする。
「できればしたくないんだけどな」
俺は苦笑を洩らした。
「竜は聖剣じゃないと殺せないという話を聞いた記憶があるんだが…」
「それは『聖竜』や『ガーゼル』の場合よ。
破壊竜は邪なる存在…魔物の強力版と考えた方がいいわ」
「強力版…?
そりゃ楽しそうだな」
俺達が苦笑していると、破壊竜は猛スピードでこちらに飛んで来た。
「…ふぅ。私が動き回って翻弄させるから、破壊竜が隙を見せたなら必殺技を喰らわせて
あげなさい。
そして、怯んだ隙に私達も逃げるわよ」
レシエ公女は竜の笛を吹き、飛竜を呼んだ。
「わかった」
俺は『魂喰い』を構えて言う。
レシエ公女は飛竜を自分の体の様に扱い、敵を翻弄しては『魔風槍』で鋭い突きをくりだ
す。
「ふふっ…私はこっちよ、破壊竜さん?」
(相変わらず凄いな…)
空中戦でレシエ公女に勝てる奴はいないのかもしれない。
あんな巨大な奴を相手にまだ余裕がある。
彼女はブレスを難無く避けては反撃している。
破壊竜が彼女一人に夢中になってるのを見て、サーシャ達は洞窟へと駆け込んだ。
(ふぅ…後は俺達がどう逃げるかだな…)
しばらくレシエ公女の防戦が続いたが、彼女は破壊竜の隙を見付け、左の眼球を貫いた。
破壊竜の叫びが木霊する…。
(…っ!鼓膜が破れるかと思った!
…でも、今ならまともに喰らってくれそうだな)
俺は破壊竜に気付かれぬ様、左から近付いた。
「大地に住まう精霊達よ…汝の力を我に与えたまえ…!!」
大地の力を吸い上げ、俺は出来る限り空高くに飛び上がった。
そして、腹部分を深く斬り込んだ。
「気に入ってくれたか?飛竜の牙の味は…よ?」
スタッと着地し、再び悲鳴にも似た声を上げている破壊竜に言った。
「『地聖の技』に『飛竜の技』…本当に何でも出来るのね…」
レシエ公女は俺の横に降り立ち、嫌味たらしく言う。
「親父に叩き込まれたんだ。俺の…」
意思じゃない、と言おうとした時レシエ公女が血相を変え叫んだ。
「ジュノーン、危ない!」
「何が?」
と言った途端、俺は破壊竜の前足(?)で掴まれ、岩に叩き付けられた。
「く、クソッ!」
ガラガラッと周りの岩が崩れる。
前までの俺ならさっきので瀕死の重症だろう。
そして、立ったところをブレスで追撃してきた。
それを横に飛び、ギリギリで避ける。
俺は破壊竜の視界から逃れる為、左目の方へ回り、物陰に隠れた。
しばらくレシエ公女とそこで息を潜め、破壊竜が諦めるのを待った。

「…『地聖の技』と『飛竜の技』のコンビネーションをまともに喰らっても平気だとは驚
いたな。俺の中では最強の技だったのに…」
破壊竜が少し離れた時、俺は溜め息を吐いた。
「今のままでは絶対に勝てないという事ね。
そう考えると片目を潰せたのは幸運だったわ」
「どうせなら両目共潰しといてくれよ」
「無茶言わないで。
私だって必死だったのよ?」
「わかってるよ。冗談だ」
そう言うと、レシエ公女はクスッと笑った。
「ジュノーンは変わったわね…」
「そうか?
俺からすればレシエ公女も変わったと思うけどな」
「私が?」
意外そうな顔をする。
「よく笑う様になった」
そう言うと、少し照れている様だ。
「久しぶりに貴方に会えたからかも知れないわ」
(え゛…)
いきなりドキッとする事を言う…。
「もう会う事もないかと思ってたから」
(そういう意味か…)
ちょっとがっかりしてみたりする。
「それと、貴方はもう私の部下ではないのだから、呼び捨てでいいわよ?」
ああ…それで俺と話す時でも昔みたいに丁寧語じゃないのか。
実はちょっと気になっていた。
「わかったよ。レシエ」
そう呼ぶと、少し嬉しいような、でも照れているよいな表情をした。
「…それより、私達は飛竜に乗って山を下りない?
その方が早いし、破壊竜は洞窟の前で待ち伏せしてるみたいだし」
「ああ」
俺はアレスを呼び、下山した。



(…どうしてレシエさんと残るの?それは…私なんかじゃ足手まといになるんだけど…)
レシエさんが現れてから私は凄く不安だった。
ジュノーンの表情が強気になったというか、彼女と再会してから覇気が戻った。
それが…私としては嫌だった。
(…これって、嫉妬なのかな…?)
そう思うと少し、自己嫌悪してしまう。
(…痛ぃ)
それより右手がいい加減に限界に達してきた。
ジュノーン達が破壊竜を引き付けて、私達が物陰に隠れている時から痛みがあるのだ。
「あの…セネト王子?手、離して頂けませんか?」
そう、ずっと彼が私の手を握ったままだったのだ。
「えっ…?あっ、すまない!」
セネト王子は急いで手を離した。
顔が赤くなっている。
気付いてなかった事を恥じたのだろうか?
(うわ…手がうっすら紫色になってる)
完全に血が止まっていた様だ。
「本当にすまない」
セネト王子はもう一度頭を下げた。
「いえ、お互い必死だったんですもの」
「…そうだな。ガーゼルと戦った僕ですら一瞬怖じけ付いてしまった程だ」
あれだけ大きくて威圧感があるのだ。
それは仕方がない。
真の恐怖に免疫力も何もないのだから。
「それより…エリシャさん達は?」
さっきから周りに人気がない。
「あれ…?はぐれちゃったみたいだな…」
周りを見渡して言った。
「でも、別に急ぐ必要はないよ。あんなデカイ竜がこんな所に入れるワケないし、ゆっく
り歩いてても問題ない」
「そうですね」
愛想笑いで返す。
でも、内心不安でたまらない。
ジュノーンの無事は勿論、レシエさんとの関係…。
「あっ…サーシャ王女、喉渇いてない?」
セネト王子が洞窟内の湧き水を見付けた様だ。
彼は手で湧き水を掬って飲んだ
(そういえば私も喉がカラカラ…)
ずっと走り続けていたのだ。当然と言えば当然かも知れない。
私もセネト王子の横に並び、同じ様にして水分を補給。
しかし、その行為が愚かだった。
突如、後に気配を感じたと思うと、セネト王子は背後から頭を強打されたのだ。
「う…ぐ」
後頭部を押さえ、前のめりに倒れた。
私は急いで剣を抜いたが時遅く、何か呪文を掛けられ眠らされてしまった。
(ジュノーン…)
ウエルト宝剣のマインスターが地面に音を立て、落ちた……。



「おい!何でサーシャがいないんだ!!」
俺達が梺に降りたら、2人の姿が無い…。
セネト王子とサーシャだ。
「私達は知らないわよ。
ね?サン」
フラウの問いにサンが頷いて答える。
「うん。途中までセネト王子といるのは見たけど…途中で見失っちゃった。ごめんなさ
い」
サンが申し訳なさそうに頭を下げた。
「いや、君は悪くない…」
くそっ…。
「誰もいない洞窟で男女2人は何してるのかしらねぇ〜?」
エリシャがニヤニヤしながら俺を見る。
それによって俺の脳内の線が切れた。
「くっ…!大体お前がちゃんと見とかないからだろうが!俺はお前にも頼んだハズ
だ!!」
「お前とは何よ!しかもあんたが勝手に私に頼んだんでしょ!」
「なんだと!?」
………
……
…
それからしばらく俺とエリシャの口喧嘩が続いたが、ヴェーヌさんが見かねて止めた。
「少なからず、サーシャ達に何かあったのは確実だわ。手分けして捜しましょう」
ヴェーヌさんが上手くまとめた頃、洞窟入り口からよろよろとした人影が現れた。
それは…頭から血を流しているセネト王子だった。
「セネト王子!どうなさいました!?」
皆が彼に駆け寄る。
「くっ…すまん。サーシャ王女が拐われた」
それを聞いた時、俺の頭は真っ白になった。
セネト王子がサーシャの落としたマインスターを俺に渡す。
「目覚めた時に、これが地面に…」
「ふざけるなよ…!」
俺はセネト王子の胸ぐらを掴んでいた。
「拐われたまま何帰って来てるんだよ!」
「悪かったよ。僕がもっとしっかりしていればと後悔してる…!」
「悪かったで済むと思ってるのか!?」
俺がセネトを殴ろうとすると、何人かの人達が俺とセネトを離した。
「ジュノーン君、落ち着きなさい!」
エリシャとフラウ、サンが俺を抑える。
「今セネト王子を責めても仕方ないじゃない!今はサーシャを捜す事が先決でしょ!?」
俺はその言葉により、向かう先をセネトから洞窟に変えた。
「ちょ、ちょっと!
サーシャちゃん捜すって言っても一人で行かないでよ!」
サンが俺の腕を強く掴んで言う。
「離せ!サーシャをっ…!」
その時、俺の頭に電撃が走った。
「ごめんなさい…」
エリシャの呟きが聞こえた後、俺は意識を失った…。
(サーシャ…)


 
 
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