5章 サーシャ救出!

 

ジュノーン達がパンドラ監獄に向かっている頃…
監獄では二人の男がいた。
一人はワインを片手に持ち、もう一人は食い物にがっついている。
「しかし、ドルム様。本当にあの小娘が例の『容器』なんで?」
背丈は巨人族にも劣らぬ程の大きさの肥満男が、食事の手を止め、彼の半分程度しかない
大きさの華奢な美青年に敬語を使い話しかけた。
「いや、まだわからぬが…余はそう願っておる」
ドルムと呼ばれた青年は長い黒髪にクシを通しながら冷笑を浮かべた。
「他にも『容器』となりそうな女はいる。
また見付かればここに連れくるだろう」
「ガハハッ!そん時はこのパンドラ獄長のブルーグに任せて下せぇ!」
自分の分厚い胸を叩いて言う。
「うむ。しかし、気を付けろ。
知らぬ間にこの世界になかなか腕の立つ奴等が現れている。
ギガントスの奴がこの前瀕死の状態で帰って来たのだ」
それを聞くと、ブルーグと名乗った男は驚愕した。
「ギガントスがですか!?アイツに勝てる人間がいるんですかい…。信じられねぇ話で
す」
「その様だな。余とて信じたくはないのだが、事実なのだから仕方あるまい。
部下の話ではあの娘の仲間らしい」
ドルムは血の様な色ををしたワインを少し口に含んだ。
「拷問しましょうか?」
ブルーグは拷問器を横目で見ていう。
表情や口調からは『しましょうか?』というより『させて下さい』と聞こえる。
「いや、よい」
その返答に、ブルーグは大変残念そうな顔をする。
「若い女の悲鳴は快感なのですがなぁ…」
「貴公は相変わらずだな。
それより古城跡付近に何人かの密偵が忍込んでおった。全員始末しておいたが…もしかし
たらここの場所も知れとるかもしれん。
その場合はあの小娘の仲間が来るかもしれんぞ?」
「その場合はきっちり俺がしとめさせて頂きやす」
ブルーグは自信満々と言った感じで骨付き肉を骨ごと噛み砕いた。
「うむ。しかし、危なくなったら逃げろ。部下と言ってもまともなのは貴公とギガントス
しかおらんのだ。
残りの盗賊や山賊どもでは国一つ落とせん。
この前洗脳したレオンハートやらイストリア騎士達はもういない様だしな」
ドルムは苦笑しつつ言った。
「わかりやした。
しかし、破壊竜を使えば簡単に大陸制覇などできるでしょうに…」
「破壊竜はあまり使いたくない。
余の望みは大陸制覇であって破壊ではないからだ。
レダ古城周辺に魔竜がいた時はよかったのだが、いなくなってからはトレジャーハンター
とやらがよく来る様になった。
もしかすると地下帝国の入り口を見付けられかねんからな…破壊竜は魔竜の代わりの門番
みたいな物だ。
それに、あの竜がいつまで余の配下におるかもわからんしな」
ふっ、と笑い、グラスのワインを飲み干す。
「し、しかし破壊竜が裏切ったら俺達の命もヤバくなるんじゃねぇんですか?」
ブルーグの分厚い皮膚から脂汗がにじみ出ている。
「安心せよ。その時までには余には忠実で最強の部下がおる。
魔神将(アークデーモン)という…何者にも勝る部下がな…!
楽しいぞ?
魔界最強の魔神と破壊竜の対決が観戦できるのだ。
余はそれを見る為に『容器』を捜しておると言っても過言では無い」
「ガハハハ!そうでしたかぁ!
そいつぁ楽しみですな!!
…それはそうと、これからドルム様はどうなさるんで?」
ブルーグは牛の肉に噛み千切りながら話す。
「余はこれから地下帝国に戻り、他の『容器』となりそうな女に目星をつけてみるつもり
だ。
その間、資金集めでリグリア塔で行われる勇者大会に出るがな。なにぶん、国名を明かし
てないだけに資金不足という悩みは消えん…。各地の山賊達には街娘を捕まえて売れとは
命じているが、あまりそういう事はしたくない…」
ドルムは苦笑を洩らした。
「大変ですなぁ…。
あっ…だからレオンハートの野郎にはリグリア塔に『支配の像』を置く様指示しなかった
のですな?」
「まぁそうだな。金だけ頂くのは簡単だが、大会には実力者が集まる。それを調べておき
たいのだ。もしかしたら余に勝る奴がいるかもしれんしな」
「ガハハ!そいつぁ有り得ませんな。ドルム様に敵う奴など、その魔神将か破壊竜くらい
しかいないでしょう」
まんざら冗談でもなさそうに言うブルーグの言葉にドルムは微笑した。
「では、余は地下帝国に帰るぞ?
たまには帰らんと盗賊共の士気が下がる。あんな奴等でも役に立つからな」
「ちょっと待った。あの娘、結構金を持ってましたんでドルム様に渡しておきます。資金
の足しにしてくだせぇ」
あの娘とは、勿論サーシャの事である。
「すまんな。恩にきる」
金を受け取るとワープを唱え、消えた…。
「相変わらず欲があるんだか無いんだかわからねぇ人だ。だからこそ俺も連いて行くんだ
がな」
ブルーグは牛一頭を軽々食べ終え、愛用の棍棒を手に取った。これはドルムに魔力を込め
てもらったものだ。
(侵入者が来た時の為に運動しとくか)
「おい、そこの奴!今から俺と実戦練習だ!」
辺りを見回し、一番近くにいた兵に言った。
「え゛〜!俺ですかっ!?」
「そうだ!文句あるか!?」
こうしてパンドラ監獄の兵は1人減った…。



(私、ここで死んじゃうのかな?)
意味もなく壁に着いてる汚れを指で擦ってみる。
汚れは落ちない。
(やっぱりジュノーンの言う通りサリアに来なきゃよかった…)
そうすれば彼はレシエさんと再会する事もこんな事に巻き込まれる事もなかったんだか
ら。
(でも、いずれはウエルトも巻き込まれるよね…)
結局、こうなる運命だったのかも知れない。
私と、ジュノーンはいつまでも一緒に居られないという…残酷な運命。
(元々王族の娘に自由な恋愛なんて夢物語なのかもしれない)
エンテさんやカトリちゃんは特別なのだ。
大抵の王族や貴族は親によって嫁ぎ先は決められる。
国の和平のためだとか友好上のためだとか…そんな理由で…。
そう思うとまだ嫁ぎ先は決められてないものの、お父様を少し恨んでしまう。
(私もどこかの偉い人と結婚するのかな…?)
そんなの嫌。
自分と愛し合っている人以外となんて結ばれたくない。
私はジュノーンと…
「おい、飯だ」
沈んでいると、見張りの人がご飯を牢の隙間から入れてくれた。
(そういえば、私今捕われてるのよね…)
一人だとつい考え込んでしまい、現状を忘れてしまう。
私はお世辞にも美味しいとは言えないご飯を口に運んだ。
でも、お腹が減っているから多少味が悪くても気にならない。
(私、どうなっちゃうの…?)
再び絶望感が私を襲う。
でも、私には一人の男性を待つ事しかできない。
ジュノーンを…。



「ジュノーン君!」
フラウが振り返った。
俺達はリグリア塔辺り、やっとの思いでセネト達に追い付いたのだ。
レシエが猛スピードで行くから、それに着いて行くのは大変だった。
「ジュノーン君、顔色悪いわよ?」
フラウの横にいたマーテルが心配そうな顔をする。
「酔っただけだ…」
気持ち悪い…。
「竜騎士が竜酔いってかなり恥ずかしい話よ?」
「うるさいな」
天馬騎士3姉妹は笑っている。
「おい、笑ってる場合じゃないだろ!」
セネト王子の怒声が3姉妹を制止させる。
「早くサーシャ王女を助けに行かないと…!!」
「その事ですけど、セネト王子達はレダ古城周辺のアジトを調べて頂けませんか?多人数
で攻め込んだら逆に危険かもしれません」
レシエがセネトの言葉を遮り言った。
「いや、行くなら君達が行ってくれ。彼女は僕のせいで捕まったんだ。僕が助けなくちゃ
いけないんだ…!!」
セネトからは必死の思いが伝わっている。
「…………」
もしかしてセネトはサーシャに…?
「ふっ…誰のせいで捕まったと思ってるんだ?不意打ちで一発もらったからと言って、気
を失ってる奴に助けれると思ってるのか?」
一度沈めた怒りがふつふつと蘇ってくる。
「だからこそ助けに行くんだ!
例え僕は一人でもサーシャ王女を助ける!
僕には…彼女が必要なんだ!!」
自分でそう言いきってからハッと口を押さえる。
当然、周りは沈黙する。というより、唖然としている。
俺もその一人だ。
「ライバル登場ね」
マーテルが耳元で言った。
「…………」
俺は言葉を返せなかった。
レシエはそんな俺をちらっと見た。
「では、サーシャ王女救出はセネト王子とジュノーンに行ってもらいましょう」
とんでもない事を言う。
「意義はありませんね?」
レシエがきつく俺を睨む。
(そういうのを恫喝って言うんだよ…!)
俺は内心で文句を言ってみる。
セネトは無言で頷く。
「では、明日の正午にリグリア塔の酒場に集合しましょう。お酒を飲む習慣はありません
が」
とレシエは余裕のある表情をしているが、俺はそんな余裕等ない。
何故俺がセネトと行かなくちゃいけないんだ?
マーテルはにやにやして『頑張ってね♪』と俺の肩を叩いた。
そして、天馬騎士姉妹とレシエはエリアル洞窟には入らず、直接空から古城へと向かった
…。
ぽつんと取り残された気分になる俺とセネト。
「よし、行こう!
君が強いのは知ってるが、もし遅れを取る様なら放っていく…!」
セネトがルナの剣を抜いて言った。
「その言葉、リボンでも着けて返してやるよ」
ふっ、と俺達は笑うと同時に走り出した。
サーシャが捕まっているであろうパンドラ監獄へ…。


 
 
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