6章 勇者大会

 

「はぁっ、はぁっ…疲れたぁ…」
俺達は息を整えながら、湧き水周辺で休憩している。というよりぶっ倒れている。
パンドラ監獄の入り口に巨大な岩を置いて出入り不能にしたのだ。
中では兵士達が『閉じ込められたぞー!!』等て叫び、必死になっている様子。しばらく
時間は稼げるだろう。
しかし、驚いた事にあのブルーグという男、俺達3人の必殺技を全てまともに喰らったに
も関わらず生きていたのだ。
どうやら生命力も巨人族並らしい。
「サーシャ王女、立てるかい?」
セネトは座り込んでいるサーシャに手をさしのべた。
「あ、大丈夫です。自分で立てますから」
しかし、サーシャは彼の手を取らずに立った。
(よく言った。サーシャ)
そんなサーシャを思わず誉めてしまう。
「ほらぁ、ジュノーンも立ちなさいよぉ」
壁にもたれて座ってる俺の肩を剣でちょんちょんと突く。勿論、剣は鞘に入っている。
「こら、危ないだろ」
一応注意する。
「鞘に入ってるんだから危なくないってば」
「いや、わからないぞ?
もしかしたら剣が意思を持って、鞘を突き破って俺に突き刺さるかもしれないじゃない
かっ」
「有り得ないって」
サーシャが呆れ気味にツッコム。
いつもと同じ様な会話…。さっき俺達が抱き合っていたなんて、全くもって嘘みたいだ。
あの時、俺は自然に抱き返していた。
別に意識する事もなく…自然に。
セネトに見られていたらどうなっていただろうか?あまり考えたくない。
だって、俺達のこの会話を見ているだけで彼はあんなに恨めしい顔をしているのだ。あん
な場面を見られたら殺されかねない。
「ジュノーン、早く行くぞ。レシエ達との待ち合わせに遅れる」
セネトはスネた様にさっさと歩く。
(やれやれ…)
俺はゆっくり立ってセネトの後を追った。
………………
…………
……
「しかし、サーシャが『飛竜の技』を出来るなんて知らなかったな」
あれはびっくりした。
「てへっ♪実は前、シゲンに教えてもらったの。『これを覚えときゃどんな奴でも倒せる
ぜ』って」
シゲンという奴の口調を真似て言う。
まぁ、『飛竜の技』は数ある技の中でも最強の威力を誇る。但し、動作がでかいのがネッ
クなのだが。
「シゲン?
シゲンってあのゾーアの魔剣士の?」
「うん。すっごく強かったんだよ?」
ユトナ聖戦に参加してる奴って大体そうだな…。
「でも、今はリュナン様達と一緒にどこか行ってるんだって」
サーシャは少し寂しそうに言う。
「彼等がいればもうちょっと心強いんだけどな」
セネトも話に加わって来た。
「しかし、呑気なモンだな。リュナン公子は」
「あははっ。そうだね。
リュナン公子は今どうしているんだろうか?…あっ、リーヴェ王って呼ぶべきかな?」
セネトは微笑した。
「楽しく過ごしてるんじゃないか?
俺達が必死こいて頑張ってると言うのに…」
恨めしそうに言う。
「ユトナ聖戦での英雄だか何だか知らないが、全く…」
ふぅ、と溜め息を吐くと、サーシャが俺の頭を軽く小突いた。
「リュナン様の悪口言わないの!
ジュノーン、それって嫉妬だよ?」
「…かもな」
想ってる人と幸せに自由な旅を送れるなんて羨ましすぎる。
「じゃあ、今度は私達が幸せになればいいじゃない♪」
サーシャは純粋無垢な笑顔を浮かべているが、それは問題発言だぞ?おそらくサーシャは
深い意味を考えずに言ったのだろうが、聞方によっては色々な意味になる。
これはセネトが勘違いする前に早急に手を打たねばっ!
「そりゃそーだ。な?セネト」
カナン王子の肩をぽんと叩く。
「えっ?な、何の事だ?」
「いんや。べっつにー」
ライネルの言い方を真似してみた。
「お、おい…」
セネトは不安そうな顔をしている。
その横で、さっきの笑顔とは逆に、凄く不機嫌そうなサーシャが黙ってこっちを見てい
る。
「………」
「…?なんだ?何か気に触る事でも言ったか?」
「なんでもないよ…」
寂しそうな瞳をして、俺から視線を移した。
(…?何か悪い事言ったか?)



(やっぱり…ジュノーンは私の事を妹程度にしか想ってないんだ…)
さっきの言い方から察するに、ジュノーンはセネト王子と私をくっつけたがってる…?
それは私が邪魔だから?
それとも国の為?
ねぇ…教えてよ…。
私、こんな辛い思いしたくない…。
「どうしたの?」
セネト王子が心配そうに見つめてきた。
「いえ、なんでもないです」
彼も嫌いじゃない。
でも…ジュノーンといるみたいに、幸せを感じない。
これって、ただのワガママなのかな?
(…………)
わかんないよ…。
私一人じゃ答えが出せない。
誰かに相談しよう。
エリシャさんやマーテルお姉さまならきっと教えてくれるかも…!
そして、出来れば私がどうすべきなのかも…。



結局、サーシャはあれからしょんぼりしたままだったが、待ち時間に3時間程遅れて俺達
はリグリア塔の酒場に着いた。
そこには天馬騎士姉妹とレシエ、エリシャにレオンハート公…他にも何人かの魔導士や剣
士、それに戦士もいる。
「あ、やっと来た」
フラウがこちらに気付いて言う。
「もう少し待って来ない様だったら私達も監獄に行こうと思ってたのよ?」
マーテルもこちらを向き、安心した表情を見せた。
「入り口を閉じてきてやったよ」
俺はウェイターを呼び止め、麦酒を注文した。
「あ…テムジンにサムソンじゃないか!」
セネトが驚いた様に言う。
(テムジン?あの傭兵王の?それにサムソンと言えば次期エリアル王じゃないか)
かなりのお偉いさん方だ。
「バカモノ!声が大きいわ!」
テムジンがセネトをどやしつける。
そして、俺の方を向いた。
「ほう…お前がジュノーンか。レシエから大体の話は聞いているが…ふむ。なかなか良い
瞳をしておるな」
テムジンは右手を差し出した。
「ど、どうも」
俺も右手を出し、握手をする。
さすが傭兵王だ。威圧感というか、貫禄がある。
「俺がサムソンだ。よろしくな」
横のごついガタイをした次期エリアル王が俺に握手を求めた。
「ああ。よろしく」
この男はどことなく親しみやすい。
「彼がリシュエルよ」
サムソンと握手を終えると、マーテルが隣の美男子を俺に紹介した。
リシュエル…確かマーテルの彼氏だったな。
軽くリシュエルとも握手を交した。
(…見た感じユトナ聖戦に参加していたメンバーばかりじゃないのか?)
「では、自己紹介が終った様なので、これからの予定を話します」
俺達が握手し終ったのを見て、レシエが話し始めた。
「昨日、私はヴェーヌ達と共に盗賊連盟のアジトを探しに行き、そして見付けました」
さすがレシエ。
「しかし、そこはアジトと言うより、都市と言った方がいいでしょう」
「都市?あんな所に都市なんてあるのか?」
セネトがレシエの言葉を遮り言う。
「はい。レダ古城跡の中に隠し階段を見付けまして、そこには街がありました。
地下都市とでも言いましょうか。
国名はヴォルグ帝国。
国民は盗賊しかいません。
この前私達が撃退したのはほんの少しと言った程度でしょう」
皆黙って聞いている。
「そして…今から言うメンバーにはその帝国に攻め入って、制圧してもらいます」
さすがにそれを聞くと皆ザワザワし始めた。
なるほど、強者ばかり集めた理由がわかった。
「と言っても、私とジュノーンとサーシャ王女…」
(え゛…サーシャも?)
「…以外の人達に言ってもらおうかと思います」
…なんだよ。脅かしやがって。
「あの…なんで私達は行かないんですか?
他にやる事があるとか?」
レシエが言い終えるとサーシャは瞬時に質問した。
「あなた達にはウエルトに帰って頂きます。
サーシャ王女がまた狙われる確率がありますので…ね。私は護衛です」
さすがにこの答えにはサーシャも驚いている。
「サリアのお祭りは中止になったのよ」
マーテルが半放心気味のサーシャに話しかけた。
「こんな状況ではお祭りも何もないもの…。
でも、来年はするから、その時は来てね?」
マーテルが申し訳なさそうに言う。
「うん…」
サーシャはかなり残念そうだ。
それも納得できる。はっきり言って俺達は踏んだり蹴ったりだ。
…それより他にサーシャが沈んでいる理由があるみたいだが、どうもわからない…。

「レシエ、この作戦は待ってくれ」
セネトが今度はレシエに抗議する様子。
「と、言いますと?」
「僕達はサーシャ王女を助ける際に、ブルーグというパンドラの獄長と戦ったんだ。
しかし、彼は人間でありながらも巨人族と同等の強さだった。僕達3人の必殺技で重傷を
負わす事は出来たが、殺せなかったんだ。
戦闘力だけ取ってもかなり強い。
巨人族だけなら、リシュエルやエリシャという強力な魔導士がいるからどうにかなるかも
しれないが、そんな奴がもう一人いるようではたちまち僕等は全滅だ。だから、魔神の力
を持つ君かジュノーンに来てもらいたい」
それは一理ある。いくらユトナ聖戦の勇者達とはと言え、あれは人知を越えた力だ。
「そうだったのですか…。では、私が行きます。
ヴォルグ帝国には明日の昼頃出陣します」
レシエは少し、考えてから答えた。
「おいおい、その巨人族ってのはそんなに強ぇのか?」
サムソンがその会話を聞いて俺に小声で訊いてきた。
「ああ。多分傭兵王でも勝てない」
正論を言う。
「…マジか?」
「こんな時に嘘なんか言わないって。
魔法の類は効くと思うがな」
俺がそう言うと、そうか、と礼を言い、サーシャに話しかけに行った。
知り合いらしく、サーシャは笑顔でサムソンと接している。
しかし、どこかぎこちない笑顔だ。
というか、俺の麦酒はまだか?

「ジュノーン」
やっと俺の手元に麦酒が来た頃、レシエが話しかけてきた。
「私達も、ヴォルグ帝国を制圧し終ったらウエルトに向かいます。
その時まではサーシャ王女は貴方が死守しなさい」
「そのつもりだが…どうしたんだ?」
「私の読みではサーシャ王女が『光の王女』なのよ」
「な、なんだと!?」
俺は思わず麦酒を落としそうになった。
「『魔神将の書』という古文書に載ってたのよ。
『汚れなき若き光の王女の体に魔神将を宿らせたならば、魔神将と契約でき、それを配下
にできる』とね…」
「そんな…!
サーシャはそんな魔神なんかとは何の関わりもないんだぞ?聖竜の巫でも何でもない…普
通の王女なんだ」
俺はかなり動揺していた。
「だからこそ…なのよ。
聖竜の巫…すなわち、マリア王女、メーヴェ王女、ティーエ王女、セネト王子の妹のネイ
ファ王女では、聖なる力が強すぎて魔神が降臨できないのよ。
そして他に王女と言えば、テムジン様の娘のカティナ様と…サーシャ王女。
カティナ様はサムソン様と愛は結ばれており、おそらく『汚れない王女』ではないハズで
す。失礼な言い方だけどね。
要するに、『普通の王女』でなければならないのよ。
何故王女でなければならないかと言うところのページは破れてしまって、わからなかった
けど…サーシャ王女の確率は極めて高いわ」
「…………」
俺が呆然自失していると、サーシャが悲鳴が聞こえた…。



 
 
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