勇者大会…いくら強者揃いだとはいえ、魔神の力を得た俺が苦戦するはずもなく、軽々準
決勝まで突破した。
(…話にならん)
正直物足りなさを感じている。
魔神の力無しの頃でも楽勝だったと思われる。
全員峰打ちで気絶させて勝ち上がってきたのだ。
本気でやれば瞬殺してしまう…。
(決勝戦はサムソンか?)
実は他の試合を見ていない。
パンドラ監獄での事もあり、大変疲れているから出来るだけ休憩に時間を費やしているの
だ。
サムソンはユトナ聖戦に参加していたと聞くから、この大会の出場者レベルではどうにも
ならんだろう。
(眠たい…)
大きなアクビをしてから辺りを見回すと、控室前にサムソンがいた。
「よぉ、決勝戦何時からだ?」
俺は彼の肩を叩いて訊いた。
「30分後だが…相手は俺じゃねえぞ?」
不機嫌そうな顔をして言う。
「…?って事は負けたのか!?」
それにはかなり驚いた。
「サムソンって弱かったのか…」
溜め息が洩れる。
「違うわっ!相手が強すぎたんだよ!
…まぁ、お前もいい勉強になるだろうよ」
すると、そこへ長い黒髪の美少年が控室から出てきた。
「噂をすれば…だな。あいつが決勝の相手のドルムだ」
「あいつが?」
見た感じ、魔導士みたいなローブを着ているが、剣を持っている…って事は剣士なのか。
歳は俺より少し上だろうか?
その魔導士風剣士は俺達の前に立った。
「俺が決勝で闘うジュノーンだ。良い試合をしよう」
一応自己紹介。
俺ってなんて礼儀正しい奴なんだろう…。
「うむ。我々の未来にこの闘いを捧げよう」
「…?」
なんだこいつ?ワケわからん事を言い出した。
「では、失礼する」
ドルムは微笑してこの場を去った。
俺とサムソンは顔を見合わせ首を傾げた。
……
…………
………………
いよいよ決勝戦。
魔導士風剣士・ドルムとの対戦だ。
今は司会が俺達の紹介をしている。
そして…ゴングが鳴った。
俺とドルムは同時に構えた。
(剣か?魔法か?)
相手が何をしてくるかわからないので、とりたえず様子見。
しかし、何もしてくる気配は無い。
相手も同じなのかもしれない。
(…なら、俺から行ってやるよ)
先制攻撃で首もと狙って斬りつけた。
(とらえた!)
そう思った時には俺の剣は空を斬っていた。
「どこを見ている?」
冷笑を浮かべたままそう言った。
(な、何?)
もう一度試してみたが、やはり当たらない。
「遅い」
少し残念そうに言うのが余計に腹が立つ。
(ふざけやがって…!
ならば『連続の技』だ!!)
俺の殺意が目を覚まし、素早い攻撃を2、3度繰り返したが、やはり結果は同じでカスリ
もしない。
斬ったハズなのに斬れていないのだ。
「今度は余がいくぞ?」
俺が瞬きをし終え、目を開けると、さっきまで5mは離れていたであろうというドルムが
俺の目の前にいた。
(なっ…!?)
避けようと思った時には時遅く、俺は『連続の技』をやり返された。
左腕と右肩近くから生暖かい液体が流れ始めている。
(くっ!)
必死に奴から距離を取る。
(なんて『連続の技』だ。いつ斬ったかもわからないなんて…人間業じゃない!)
しかも鎧の隙間を的確に狙った攻撃だ。
「ふっ…さっきまでの威勢はどうした?」
剣先を俺に向けて嘲笑う様に言うと、会場は大変盛り上がった。
「ふざけやがって…!」
俺の頭には血が上ってしまい、ガムシャラに攻撃を仕掛けた。
しかし、結果は同じで何度も反撃を喰らうハメになる。
「はぁっはぁっ…」
数分間それを繰り返した…。
俺は全身から血を流し、剣にすがりながら立っているという情けない姿だった。
どちらかと言うと遊ばれている。
(バカな…!)
相手にダメージを与えれないまま息を切らすなんて、今まで一度も無かった事だ。
「話にならん。棄権したらどうだ?」
ドルムは相変わらず冷笑を浮かべながら言う。
「ふっ…笑止な!俺の辞典には棄権という言葉は無い!!」
「愚かな…!」
見下す様なその視線が更に怒りを呼ぶ。
(どうする…!?)
もはや普通に攻撃しても当たらない。
ならば…あれしかない。
「空に舞う風の精霊達よ…汝の力で敵を刻め…!」
「ほう…『烈風の技』か」
少し表情を変えた。
「喰われろっ!」
「…!?」
この技は瞬速という言葉が正しい。
奴は横腹から血を流している。
(……っ!?)
しかし…傷は浅かった様子。
「ふっ…余に手傷を負わせたのは貴公が初めてだ」
な…に…?
「褒美に見せてやろう…!
余の奥義を…!!」
そう言うと、さっきの様に瞬時に近付いて来た。
「竜聖の灰になれ!」
そう叫びながら俺を5回斬り捨てた。
(これは『竜聖の技』…?ゾーア人しか知らないんじゃないのか…?)
そう訊こうと思った時には、俺の意識は無かった…。
…………………
……………
………
意識が戻った時、俺は控室に居た。
サムソンとドルムが視界に入った。
俺は起き上がり、ドルムの方を向く。
「参ったよ。俺の負けだ。あんな負け方をしたのは初めてだ」
素直に負けを認める。
「恥じる事ではない。
貴公はもっと強くなる。いや、強くならなければならない」
真剣な目付きだ。
その瞳の奥には何が隠されているのだろう?
「…頑張るよ」
ドルムはサムソンの方を向き、『あなたもだ』と付け加えた。
「へっ、嬉しい事言ってくれるぜ」
サムソンは少し皮肉っぽい言い方をした。
ドルムが立ち去ろうとした時、セネトが部屋に入ってきた。
ドルムはセネトに軽く礼をした。
「さっきの貴方の剣術は凄かったですよ。
よければ今度僕とも手合わせ願いたいくらいだ」
「…残念だが実力差がありすぎる」
そう言われるとセネトは苦笑するしかない。
「あはは。確にね。ジュノーンが全く歯が立たないんだから当然か。
でも、いずれはお願いするよ」
「考えておこう」
もう一度礼をし、ドルムは部屋を立ち去った。
「ジュノーン、大丈夫かい?」
セネトは俺に手を貸そうとした。
「ああ。ぼちぼちな」
その手を借り、俺は立ち上がる。
「皆が待ってるよ」
外に出よう、とセネトは指で指示する。
それに従い、俺も部屋から出ようとすると、サムソンが呼び止めた。
「ジュノーン、賞金忘れてるぜ」
紙袋を俺に投げた。
すっかり忘れていた。
サムソンに礼を言うと、セネトの後に続いた。
………………
…………
……
「ジュノーン、大丈夫?」
外に出て、一番に声をかけてくれたのはサーシャだった。
「ああ。大丈夫だが…俺、カッコ悪かっただろ?」
あの無様な試合をサーシャに見られていたと思うと気が滅入る。
「ううん!そんな事ないよ?カッコよかったよね、フラウ?」
サーシャはフラウに同意を求めた。
フラウは無言で頷いた。
顔は相変わらず赤めている。
「…どうしたんだ?フラウ。お前さっきからおかしくないか?」
少し追求してみよう。
「え、え?何が?」
「いや、俺に頑張ってとか言うのも変だし、さっきのサーシャの問いに同意するのも変
だ」
「…あたしはジュノーンを応援しちゃいけないの?」
少し悲し気な表情を見せた。
横のサーシャの顔も何故か複雑になっている。
エリシャ、マーテルはワクワクしている感じだ。
「い、いや、そういうワケじゃないんだが…お前顔赤いぞ?もしかしたら風邪じゃない
か?」
話題を変えてみよう。
「それって心配してくれてるの?」
「ああ。一応…」
別にそんなつもりは無いのだが、そう答えるしかあるまい。
「アリガト!じゃあ、またね♪」
そう言うとフラウはいきなり機嫌を良くして、帰って行った。
(…全くわからん奴だ)
サーシャの方を見ると、今度はこっちが暗い表情をしている。
「どうした?」
「う、ううん!…何でもないよ?」
…今動揺しただろ。
そこにエリシャが近寄ってきた。
「ジュノーン君、『二兎を追う者、一兎も得ず』っていうから気を付けてね?」
バンと背中を叩いた。
「は?」
意味わからんぞ?
「違うわよ、エリシャ。ジュノーン君の場合は『三兎』でしょ?」
マーテルも加わる。
「あ、そうだったわね♪」
「おい、何の話だ?」
全く理解不能だ。
「自分の胸に訊いてみなさい♪」
更に謎を残し、二人は去った。
「…?なんだったんだ?」
サーシャに訊いてみる。
「知らない」
プイッとそっぽ向かれた。
(…俺が一体何をしたっていうんだよ)
ふと周りを見回してみると、屋台とかも出て、人もそれなりに多いので、ほんのり祭りみ
たいな雰囲気だった。
勇者大会とはそれなりに大きいイベントらしい。
「サーシャ?」
「何?」
相変わらず不機嫌な顔をしている。
「…ちょっと遊んでから帰らないか?せっかく屋台とか出てるんだし、サリアの祭りが無
くなったんだから、ちょっとでも祭り気分をと…」
すると、サーシャはしばらく考え込み…
「そうだね!」
と一転笑顔し、俺達は人ゴミの中へと向かった。
「あの、ジュノーン?」
サーシャは少し控え目に話しかけてきた。
「何?」
「はぐれたら嫌だから…手、繋いでいい?」
えっ?
「あ、ああ…」
俺が返事すると、サーシャは俺の手をそっと握った…。

それから俺達はしばらくプチ祭りを楽しみ、宿に帰った。



 
 
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