7章 滅びゆく国々

 

地下帝国・ヴォルグの主城『メルフィス』の王座の間では、大柄な肥満男が勇者大会の覇
者に土下座をして許しを乞うていた。
「余が居ぬ間にパンドラ監獄は没落させられ、その上『光の王女』を奪われたか…」
「す、すみませんでしたぁっ!」
ブルーグは地に頭を擦りつけた。
「いや、よい。
頭を上げよ。
余にも誤算があった。
いや、多すぎたというべきかな。
貴公の命があっただけでも余は神に感謝しておる」
ブルーグはその言葉に渋々頭を上げた。
彼の心中は悔しさでいっぱいだったのだ。
「して、貴公は誰にやられたのだ?」
「『光の王女』を含めて、3人です。どいつもこいつもかなりの腕でした」
拳を握りしめて言った。
「その中に、漆黒の鎧を纏った『ジュノーン』という男はいなかったか?」
「…っ!
ご存知なんですかい!?あの野郎の攻撃が一番効きやした!!」
「ふっ…やはりな。奴には余も手傷を負わされた」
「なっ…ドルム様が!?」
「うむ。生まれて初めての手傷だ。
おそらく奴が最後まで余の邪魔をするだろう」
ワインを口に運び、冷笑する。
「ふっ…非常に楽しみだ。
貴公やギガントス、そして余の傷を癒すのには少し時間がかかった。おそらく奴の剣は切
口に瘴気か何かを送り込むのだろう。
貴公に関してはまだ完治しておらん。
よって次の戦には参加せず、ここの大守として居よ」
「わかりやした。して、どこに出陣なさるんで?」
ブルーグは斬られた所を摩りながら言った。
「破壊竜を使ってイストリアを滅ぼす」
「破壊竜を使うんですかい?あれ程嫌ってらしたのに…」
少し驚いた様に言った。
「さっきも言った様に、余の誤算が多すぎた。彼等の強さに答え、本気でやらねばなるま
い。ちなみにその間、余とギガントスは盗賊共を率いてエリアルに攻め込もうと思ってお
る」
「エリアル…?あそこは強国ですぜ?盗賊共で大丈夫なんですかい?」
「安心せよ。兵力が弱かろうと、策略というのがこちらにはある。
多少の犠牲は出るだろうが、国は落とせる。余やギガントスもいるのだからな。
そうすれば余の操縦呪文で更に兵は増える」
ドルムはワインの代わりを待女に持ってくるよう指示した。
「しかし、その間ここの兵数は半分になる上、破壊竜もいない。
もし攻めてこられたら…」
「ガハハハ!その心配は無用ですぜ!この前の様な失態はもうしねぇ!!それに、あの超
魔合成の実験もつい先日終りやした」
ブルーグは棍棒を強く握り絞めた。
「ほう…『合成獣(キメラ)』か。それは頼もしいな。
一体何人の魔導士を犠牲にしたのだ?」
数々の生物の長所を合成したを野獣を作るには、並大抵の魔力では不可能だ。
おそらく、何人もの名高い魔導士が野獣合成に魔力を費やし、命を失った事だろう、とド
ルムは予想した。
「そいつは数えきれませんなぁ」
ブルーグは笑いながら答えた。
「ふっ…期待しておるぞ?
では、余はもう休む。明日に備えてな」
「はっ」
そういうと、ドルムは寝室へと向かった。



明け方…今、俺は外を一人で歩いている。
あれから、サーシャとプチ祭りを楽しんだ事は楽しんだが、やはり悔しくて昨日は寝れな
かった。
あんな無様な負け方をしたのだ。当然だろう。
「おはよう」
すると、いきなりレシエが話しかけてきた。
前にもこんな場面があった気がする…。
「………」
話す気になれなかった。
「『おはよう』は?」
「…おはよう」
変に反抗するのはやめた。それすらめんどくさい。
俺が挨拶をし返すと、レシエは少し満足した様に微笑した。
「昨日は無様な負け方だったわね」
「ぐっ…」
いきなりこの話題だ。
もうちょっと人の気持ちを考えてほしい。
「とはいえ、生身の人間で貴方に勝てる人がいるとは驚いたわ。
しかも圧倒的に…。
おそらく私が戦っても結果は同じね」
ふぅ、と小さい溜め息を吐いた。
「それより、私達はあと2時間後には出発するわ。
『光の王女』様をよろしくね。近衛騎士隊長さん」
少し冗談っぽく言う。
「ああ。レシエこそ気を付けろよ。
破壊竜や巨人族もいるかもしれないんだからな」
俺は大真面目。
「ふふっ。貴方に心配されるほど落ちぶれてないわ」
…相変わらず可愛くないな、と言いたい気分だ。
「ウエルトに戻ったら、一応『光の王女』について調べてくれないかしら?もしかしたら
サーシャ王女が狙われる理由が何かわかるかも」
「承知しましたよ。公女様」
ビシッと敬礼してやった。勿論、冗談でだが。
「…意外に元気なのね。もっと落ち込んでるのかと思ったのに」
「慰めようと思ってた?」
「ううん。からかってあげようと思ってた」
微笑を浮かべて言う。
「…ったく、マジで落ち込んでるんだぞ?」
「からかいは愛情表現の一つよ?」
「時と場合によるだろっ!」
平気な顔をして言うからつい苛立ってしまう。
「肺に命じとくわ」
無表情でそう言ったが…肺?肝だろ?これはレシエのボケなのか?それともマジで間違っ
てるのか?
と、とりあえず…
「肝に命じるだろがっ!」
豪快にツッコんでみた 。
「ふふっ。貴方はそうやって明るい方が似合ってるわ。
昔の貴方より…よっぽどね」
そう言って微笑を浮かべ、宿に向かった。
…やはりボケで正しかった様だ。
しかし、あの冷静沈着なレシエがボケるなんて…一応慰めてくれたのかな?
(それにしても、レシエってあんなに笑ったかな?)
ソフィアにいた頃はほとんど無表情だった。
やはりグエンカオスが消えたからか?
まぁ、女性は笑顔が一番いいさ。
俺がそう納得した時、レシエと入れ替わる様に俺の所へ来る少女がいた。
フラウである。
(…こいつはもう少し落ち着いた方がいいな。サーシャもだが)
「ジュノーン君、おはよう!」
「お、おう」
彼女が近くに来るとつい身構えてしまう。
これがトラウマというやつだろう。
「ところでフラウ、サーシャは?」
フラウはサーシャと同室なので、とりあえず訊いてみる。
「まだ寝てる。
あっ、わかった。ジュノーン君、サーシャの寝顔見たいんでしょ?」
悪戯な笑みを浮かべて言う。
「違う!なんでそうなるんだ!?」
「見たくないの?」
「うっ…」
そりゃ見たい…って、それじゃ変態みたいじゃないかっ!
「あはは、図星なんだ。ジュノーン君って意外に変な趣味持ってるんだね」
フラウが伸ばした人指し指を、俺に向けてころころ笑っている。
「くっ…そ、それで何のようだ?」
この話では不利だ。
「あ、話題変えられた。
まぁ、大した用事は無いんだけどね。
ちょっとお話しようかなって」
「珍しいな。俺はまた斬りかかって来られるんじゃないかと思ってたよ」
本心を言ってみた。
「だから、もうしないって。
それより地下都市を制圧したら、私もレシエ様達と一緒にウエルトに行くから、よろしく
ね」
「…ああ」
重々しく返事する。
「なによ、その嫌そうな顔。サリア1の美少女が行ってあげるのに文句あるの?」
「サリア1のトラブルメーカーだろ?」
事実、そう思う。
「うるさいな〜」
ムスっとする。
「ウエルトでは問題起こすなよ」
「わかってるって。じゃあね」
「ああ、気を付けてな」
そう言うと、彼女は意外そうな顔をした。
「…それって心配してくれちゃったりしてるの?」
「あ、ああ。一応」
「アリガトっ♪」
そう答えると彼女は機嫌良さそうに立ち去った。
(…俺が心配するのがそんなに意外なのか?)
……………
…………
………
それから2時間後、レシエ達は地下都市へと向う際、俺は皆と軽く挨拶した。
その後、彼等は出陣した。
ユトナ聖戦での英雄ばかりだ。負ける事は無いだろう。レシエもいるし。
(…あれ、サーシャは?)
ふと気付いたが、彼女はレシエ達の見送り時、いなかった。いや、そういえば今日一度も
見てないぞ?
(…まさかサーシャの身に何かあったのか!?)
急に不安になった俺は、サーシャの部屋へ一目散に向かった。
軽くノックしてみる。
…返事は無い。
(くそっ!俺が不注意だったばかりにっ!!)
宿屋のオーナーにマスターキーを借りて、飛込む様に部屋へ入った。
室内は静まりかえっていた。
いや、膨らんだ布団の下からスースーと可愛い寝息が聞こえてくる。
(全く、心配させやがってぇ…)
ホッと胸を撫で下ろす。
ベッドに近寄り、そっと顔を覗きこんだ。
「…ZZZ…」
完っ全に熟睡状態。その寝顔は何とも可愛らしかった。
指先でサーシャの頬を撫でると、彼女はくすぐったそうに笑った。勿論、寝ているのだ
が。
(…って、何をしてるんだ?俺は)
もっとこの微笑ましい(?)光景を眺めていたいという衝動を抑え、俺はサーシャを起こ
す事にした。
「おーい、起きろ」
「むにゃむにゃ…う〜ん、あと5分だけ…」
「アホかっ!早く起きろっての!!」
少し声を荒げると、彼女はゆっくり瞼を開けた。
そして、俺の姿を確認すると、飛び起きた。
「ふぇ!?なんでジュノーンがここにいるの!?」
「起こしに来た。ってかレシエ達もう出発したぞ?」
「う、嘘!?私なんにも挨拶してないのに…。
というか、ジュノーン!ノックくらいしてよ!!もし私がものすっごい踊りしてたらどう
するのよ!!!」
彼女は怒った様に、頬を膨らませた。
そのものすっごい踊りとやらには興味があるが…。
「いや、激しくノックしたぞ?それで返事が無いからまた拐われたのかと思ってオーナー
からマスターキーを借りたんだ」
「そうだったの…?
ごめんね?心配かけて」
「いや、いい。
じゃあ俺は待ってるから、準備してくれ」
「うん♪」
俺は彼女の返事を聞くと、部屋を出た。
……………
………
…
それから30分後くらいにサーシャは宿屋から出てきた。
「お待たせー」
サーシャはいつもの様に笑顔を見せている。
「よし、じゃあ帰るか」
竜の笛を吹き、愛竜を呼ぶ。サーシャも同じ様にして、ペガサスを呼んだ。
そして俺達は同時に飛び乗り、空を駆けた。
「もう競争はしないからな」
「ジュノーン、勝てないもんね♪」
「いや、俺が勝てないんじゃない。このアホ竜がいけないんだ」
ぺしっと軽く愛竜の頭を叩いた。
「あ、可哀想〜。ジュノーンの教育が悪いのに…」
「なにぃ?俺程の指導者はそうはいないぞ?こいつの自主トレ不足だ」
「竜は自主トレなんてしないって」
サーシャは苦笑気味にツッコむ。
「そ、そうだったのかぁっ!」
知っているが、豪快にボケてみた。
「知らなかったの!?」
「うむ。全く知らなかった。自分で腹筋とか鍛えてると思ってたからな」
「うそぉ…」
サーシャは失笑気味だ。
「ジュノーンって…結構アホだね」
(サーシャにだけは言われたくない…)
心中で文句を言ってみる。
…………
……
…
「ところで、ジュノーンって…レシエさんとはどうゆう関係なの?」
ブラードの上空辺りでサーシャが唐突に訊いてきた。
その表情からは真意は読み取れない。
「別に気に止める必要はないだろ?」
「だってやっぱり気になるんだもん」
「なんで?」
「気になる気になる気になる気になるぅ」
「ふ―――ん」
サーシャのだだっ子戦法を軽く流す。
「じゃあ、教えて?」
どこに『じゃあ』が繋がるんだ?
「教えてって言われても、ただの公女と騎士としか言い様がない」
確に、彼女には心は開いていたが、別に何もない。
「…ほんとにそれだけ?」
「ああ」
「そっか…」
彼女はとても寂しそうな顔をしていた。
とても…。
彼女が何を思っているのか、俺にはさっぱりわからなかった…。




 
 
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