8章 猛将ブルーグの脅威
イストリア、エリアルが悲劇を向かえている頃、レシエ達は地下都市に侵入し、物陰から 様子を伺っていた。 「変だな…盗賊の数がえらく少ないぞ?」 地下都市に侵入して、セネトが第一声を放った。 レシエも少なからず同意見だった。 「うん。それに破壊竜もいなかったし」 フラウが頷きながら付け加える。 「まぁ何にせよ、敵の数が少ない事に越したことはない。 レシエ、指示を出せ」 傭兵王は剣を抜きながら言った。 「え…?私がですか?」 レシエはその言葉を疑った。 まさか自分が指揮を任されるとは思っていなかったからだ。 普通に考えると、セネトかテムジンが妥当だろう。 「当たり前だ。皆、貴女の呼び掛けでここに来たのだ。 貴女が指揮を取るのは当然の事だろう」 厳しい視線をレシエに向ける。 「…わかりました」 迫力に負け、承知したものの自分の部下に命令を出すのなら慣れているが、自分より立場 が上の人間に命令するのは初めての経験だけにとても気が重い。 しかし、大役を任されたからには泣き言など言っている暇はない。 彼女は脳内で素早く作戦を組み立てた。 「…とりあえず、全員で行動するというのも効率が良くないと思いますので、いくつかの 部隊に分ける事にしましょう。 まず、第1部隊をテムジン様とサムソン、それにヴェーヌとします」 『部隊』と言える程の数ではないわね、とレシエは内心思いつつ、続けた。 「第1部隊には、街中にいる盗賊達を片っ端から倒してもらおうと思います」 「心得た」 テムジン達は頷く。 「第2部隊は、マーテル、リシュエル、レオンハート公にお願いしたいと思います。 やる事は基本的に第1部隊と同じです。 しかし、テムジン様達とは逆の方向を行って下さい」 「OK〜♪」 マーテルはレシエにウィンクして返事する。 おそらくリシュエルと一緒というのが嬉しいのだろう。 そんな彼女にレシエは思わず溜め息を洩らした。 「そして、第3部隊…セネト王子とエリシャ、私は中央の城に突入します。 それと注意してほしいのは巨人族やブルーグという強敵と出会った場合、他の隊と合流し て戦って下さい」 全員が頷く。 「では、参りましょう」 「ちょっと待ったぁっ!」 歩を進めようとした時、フラウが全員を制止させる。 「どうしました?」 「あたしとサンは何部隊なのよ!!」 明らかに怒りを露にしている。 確に、どの部隊にも彼女達の名はない。 「あ、ごめんなさい。忘れてたわ。 フラウ達には、入り口付近…即ちここで待機してほしいの。 そして、他部隊が倒し損ねた敵が外に逃げようとしたら倒してほしいのよ」 「なっ…それって唯のお留守番じゃない!」 「フラウ、やめときなって」 怒り狂う親友をなだめるサン。 「あら、お留守番じゃないわ? あなた達に任せる事は一番重要なのよ? だって、もし敵が外に逃げて、援軍を呼ばれたら私達は外に出れなくなるし、全滅するか も…。 言わば、あなた達は最終デッドライン」 レシエはもっともらしい事を言った。 「さ、最終デッドライン…!」 フラウはその言葉に目を輝かせた。 「わかった!あたし達が最終デッドラインを死守する!! ね、サン?」 「う、うん」 相変わらずの親友の乗せられやすさにサンは苦笑した。 「お願いね? 私達の命はあなた達に任されてる様なものだから」 「うん♪」 フラウは機嫌よく頷いた。 「嘘も方便ってやつね」 フラウ達から少し離れると、エリシャはレシエに小さな声で話しかけた。 「ふふっ。でも事実も含まれてるのよ?」 「ユトナ聖戦の英雄達が盗賊ごときを倒し損ねるとは思えないけど?」 「…それもそうね」 そう言うと二人は微笑した。 「レシエ、少し変わったわ」 「そうかしら?」 自分としては変わっていないと思っている。 「ジュノーン君と再会してからね♪」 エリシャはニヤニヤしながら言った。 「多分、それ勘違いだと思うわ」 レシエは彼女の言葉を冷たく流し、セネトのところに行った。 (もうちょっとサーシャみたいに焦ったり照れたりしなさいよ。 おもしろくないじゃない…ったく、これだから素直じゃない娘は…) 銀髪の魔導士は不満を呟きながらレシエの後を付いて行った。 「うらぁっ!かかってきやがれ!!」 サムソンは斧を振りかざして盗賊達の中へと突っ込み、軽々と蹴散らす。 そして、逃げようとした奴をテムジンとヴェーヌが倒す。 もう2時間くらいこれが続いていた。 敵数もかなり少なくなっている。 おそらくマーテル達も同じなのだろう、とヴェーヌは心中思った。 しかし、何か事が簡単に進み過ぎている様な、そんな不安を感じずにはいられなかった。 「…少し変だと思わぬか?」 ヴェーヌがその思いを抱いていた時、テムジンが呟いた。 「ええ。普通、これ程自分の部下をやられたならば、大将クラスの敵が出てくるハズ…」 「それが出てこないとなると…今ここにはいないという事になる。それか、もうレシエ達 が倒したかな」 サムソンが最後の盗賊にトドメを刺して会話に入ってきた。 もはやこの辺りに敵はいない。 「とりあえず、マーテル達と合流しましょう」 「うむ。そうだな」 そう言い、来た道を戻り始めた。 ヴェーヌはその時、何か嫌な予感がした。 妹達に何かあったのではないのか、と。 そんな時、妹・マーテルの悲鳴にも似た警告の声が聞こえたのだった…。 同時刻、地下帝国主城の『メルフィス』では、レシエ達は順調に進んでいた。 「やはり唯の盗賊の寄せ集めだな。弱い」 セネトが敵を斬り捨てて言う。 「全くね」 エリシャも下級魔法で相手をしている。 軽々と戦いは終結する様に思えたその時、レシエ達の前に、大岩の様にでかく、肥満体な 男が立ちはだかった。 「ガハハハ!久しぶりだな!! カナンの王子様よぉ」 「ブルーグ…!!」 セネトはその男の名を呟いた。 「この男が、パンドラ監獄でセネト王子やジュノーンが戦った人なのですか?」 レシエが『風魔槍』を構え直して訊いた。 「ああ。恐ろしい程の耐久力とパワーの持ち主だ。 皆、気を付けてくれ!」 「ちょ、ちょっと待ってよ! 敵には伝説の巨人族が2人もいるワケ!?」 エリシャは戸惑いの声を上げた。 確に、このブルーグという男も巨人族に勝らぬとも劣らない程のでかさだ。 「残念だが俺は人間だ。お前達と同じ…な!」 「冗談じゃないわ!あんたと同じ種族にされちゃこっちは大迷惑なのよ!! 大いなる雷よ…愚かなる者を砕け…!」 エリシャは先制でブレンサンダを2回ブルーグに落とした。 大雷が天井を突き破った。 ぷすぷすと、黒い煙が巨体から上がっている。 「やったか!?」 セネトが思わず歓喜の声を上げる。 当然だ。以前は殺されかける程苦戦したのだ。 「牛の丸焼き一丁上がりね♪」 エリシャは満足そうに微笑んだ。 「いえ、まだよ」 レシエがそう呟くと、ブルーグはゆっくり立った。 「へっへっ…なかなか気持ち良かったぜぃ?電撃マッサージはよ?」 下卑た笑みを浮かべ、ブルーグは言った。 「な、何で私のブレンサンダをマトモに食らってピンピンしてるのよ!!」 こんな事過去に一度もなかったわ、と付け加えた。 「それは…俺様が強ぇからだよ!!」 エリシャに超スピードで近付き、愛用の棍棒を振り下ろした。 しかし、間一髪レシエがその間に入り、『魔風槍』でその棍棒を受け止めた。 金属音が部屋に響き渡る。 (この巨体からどうやればよくあんなスピードが出せるのよ。 それに、普通の槍だったなら完全にへし折られて私まで潰されていたわね) びりびりと槍に伝ってくるブルーグのパワーがそれを物語る。 「あ、ありがとう。レシエ」 「どういたしまして」 少しブルーグから距離をとると、エリシャは礼を言い、レシエは無表情で返事した。 「へへっ…ジュノーンの野郎がいないから簡単に終っちまうんじゃないかと心配してたん だが、そうでもねぇみたいだな…!」 「杞憂だったわね」 ギリギリと『魔風槍』と棍棒が音を立てる。 「このまま行くとパワーの差が出るぜ?お嬢さんよ?」 ぐっとレシエの腕に負担がかかる。 セネトがそれを見て、参戦しようとした。 「今助ける!」 「いいえ、結構です」 セネトを目で制止させた。 「…『魔風槍』にはこういう使い方もあるのよ?」 微笑を浮かべて言うと、いきなりブルーグに向かって強風が吹き荒れ、目測200キロは 越えてそうな巨体を宙に舞わせて壁にたたき付けた。 その壁はブルーグの体重に耐えれず、音を立てて砕けた。 「宙に浮く経験なんて今まで無かったでしょ?巨大なゴムボールさん?」 レシエは微笑を浮かべ、壁の瓦礫をどけて必死に立ち上がろうとしているブルーグを見下 ろして言った。 「ぷっ、ゴムボール…それ言えてる。雷効かないし…」 レシエが放ったその一言にエリシャは吹き出した。 セネトも笑いを堪えている様子。 「て、てめぇ、魔導士かっ!?」 「さぁ?」 驚愕しているブルーグにレシエはとぼけて見せた。 それがまたエリシャ達の笑いを誘う。 「舐めやがってぇ…!」 「それより、意外に元気なのね。 あの烈風は敵を切り裂く能力も備えているのよ?」 よく見ると、ブルーグは体中に刃で切られた様な切傷が無数にあり、血が吹き出してい る。 (まるで沢山のウィンドを浴びたみたい…) エリシャは率直な意見を心中で言った。 「ゴムでできてるとは思えない」 レシエは更にブルーグを侮辱する。 それを少し悲しそうな表情で言うから、面白くて堪らないのだ。今まで必死笑いを堪えて いたセネトもとうとう吹き出した。 (やっぱりレシエは変わったわ。 多分これもジュノーン君の影響よね) エリシャはジュノーンの顔を浮かべてみた。 (大変よねぇ。モテ過ぎるって) 彼の未来を思うと、少し同情したくなった。 とは言え、今自分が友人達の想い人を心配している時ではない。 「てめぇ等ぁ…!」 あまりの侮辱に額の血管がはち切れそうなくらいピクピクしている。 「ブレンサンダ!」 隙だらけのゴムボールに、エリシャはもう一度自分の必殺魔法を食らわせた。 しかし、結果は変わらない。 「腐れ魔導士は黙ってろ!!」 「げっ…ホントに雷効かないじゃない。 ねぇセネト、ゴムって何に弱かったっけ?」 鞄の中の魔導書をごぞごそ探しながらセネトに訊いた。 「さぁ…?火に弱いんじゃないかな」 「でも、燃やすと臭くならない?」 「そうだなー。う〜ん…」 真剣に考えているセネトとエリシャを見ていると、レシエも思わず笑みを洩らしてしまっ た。 「お、俺はゴムじゃねーー!」 ブルーグは怒り狂いながら突っ込んできた。 動きが単調になり、読みやすいのでセネト達も軽々避けれる。 一人荒れ狂ってるので、周りの壁やら坪やらが次々と破壊されて行く。 「はっふうっ」 少し、息を切らしたところをセネトはすかさず斬りつけた。 うめき声と共に鮮血が辺りに散る。 「セネト、退いて!!」 エリシャの声に答え、セネトは後に飛んだ。 「地獄の業火よ…!」 彼女がそう呟くと、ブルーグをヘルフレイムが包んだ。 「お望み通りの炎よ。ただし、地獄のね♪」 ぶりっ子的に可愛くポーズをつくっているエリシャ。 ブルーグは悲鳴を上げながらも、火を消そうともがいていた。 「消えないわよ…地獄の炎は…」 そんな彼を見ていると、エリシャは少し可哀想に見えた。 強い肉体だけに、苦しみが長く続く…。 「うがぁぁあっ! 俺様はドルム様直属の部下だぁぁあっ!!!」 そう叫ぶと、周りの炎は消えた。 気合いで地獄の炎を消したのだ。 (前言撤回…) エリシャは呆然気味に心の中で呟いた…。 |