9章 真実
俺達がウエルトに帰って来て、まず一にした事はロファール王への報告だ。 もはや花火大会に二人で行ったというのを隠している時ではない。 しかし、ロファール王は俺達が二人で行った事に関しては何も言わなかった。リーザ王妃 が説明していてくれたのかもしれない。 俺は全て話した。 盗賊連盟の事、破壊竜の事、魔神の事、そして…サーシャが『光の王女』かもしれないと いう事…。 勿論、今本人はいない。 「サーシャが…!?」 ロファール王はかなり驚いた表情をした。 (…この反応…何か知ってるな?) 瞬時に俺はそう判断した。 「何かご存知なのですか?」 「い、いや、何も…」 明らかに怪しい…。 「知ってる事があれば教えて下さい。俺はサーシャ様を守りたいんです。いえ、守らなけ ればならないんです」 『様』を付けて呼んだのはいつ以来だろう…? 「すまんが…知らん。 それより、盗賊連盟と破壊竜に関しては私も知っている。 何せ…エリアルとイストリアが落とされたのだ」 「…えっ!?」 話題を変えられた事に悔やむべきなのだろうが、ロファール王から発せられた言葉はそれ すら吹き飛ばしてしまう程驚くべき内容だった。 「イストリアでは突如巨大な竜が現れ、城や街は壊滅状態だそうだ。運良く国王は逃げれ たらしい。 そして、エリアルでは正体不明の盗賊団が夜襲を仕掛け、わずか数日で没落させられたと 聞いている。 ちょうどテムジン殿とサムソン殿がいなかった時らしいな」 それは当たり前だ。 彼等はレシエと共に本拠地に攻め入っているのだから。 (…でも、今本拠地は誰もいないんじゃないか?) それなら意味がない。 「ところで、ジュノーンは破壊竜と戦ったと言ったが…よく生きていれたな。 イストリアでの話を聞くと、とても退けれる相手ではないぞ」 ロファール王は感心した様な表情をした。 「いえ、レシエ公女が助太刀してくれなかったらおそらく死んでたでしょう」 「彼女も魔神の力を得ているのか?」 「はい。おそらく、彼女の方が力の使い方を色々知っているでしょう」 俺にはまだ闇魔神の力を使えていない様な気がする。 現に、『魂喰い』からは物凄い力を感じる。 しかし、俺はその力の使い方がわからずぶんぶん剣を振り回しているだけのような、そん な気分だ。 「彼女も用事を終えればウエルトに来てくれます」 サーシャを守る為に、と付け加えた。 「そうか…」 ロファール王はうつ向いて黙り込み、俺に部屋を出る様に指示した。 俺は深く礼をして部屋を出る。 すると、外ではサーシャが待っていた。 「叱られなかった?」 心配そうに顔を覗き込んでくる。 相変わらずの愛らしさに悶える様な感覚を覚えた。 「ああ。イストリアやエリアルの件もあるから、警備を強化しないといけないな」 「あっ…イストリアで思い出したけど、ヴェガさんが来てるよ?今待ち合い室にいるんだ けど…」 サーシャは思い出した、と言わんばかりに言った。 「ヴェガが!?」 それは驚きだ。 奴にはサーシャを守ってもらった礼を言っていない。 俺はサーシャと共に、待ち合い室へ向かった。 「久しぶりだな」 「ああ」 待ち合い室へ着くと、相変わらず無愛想な男が俺を待っていた。 横には色気を振り撒いている女性がいた。 ヴェガの恋人なのだろうか? そうだとしたら驚きだ。 ヴェガの好みがこんなタイプだったなんて。 「今日は斬りかかってこないんだな」 「そんな気分じゃない。イストリアが破壊竜とやらに襲われたのは知っているな?」 「ああ。今、さっきだけどな。 あの化け物の強さは反則だ。 何やっても効きやしない」 事実を言う。 俺の飛竜の技を受けても足止め程度にしかならなかったのだ。 「…!?貴様、あの時イストリアに居たのか!?」 ヴェガが驚きの声を上げた。 「いや、それより少し前の話だな。 レダ古城跡で一戦交えた」 俺はあの時の事をヴェガ、そしてその横の女性に話した。と言ってもさっきロファール王 に話した内容と同じだ。 「魔神の力か…。 その力、見てみたい」 ヴェガはスッと立って、表へ出ろと指で指示した。 しかし、隣に居た女性がそれを制止させる。 「ちょっとヴェガ、今はそういう問題じゃないでしょ」 呆れた、と言う表情で女性は言う。 サーシャは横でクスクス笑っていた。 「あ、そういえば自己紹介してなかったわね。 私はクリシーヌ。ヴェガの恋人よ♪」 クリシーヌと名乗った女性はヴェガの腕に自分の腕を絡ませた。 ヴェガは非常に迷惑そうな顔をしている。 (…本当に恋人か?) ついそう思ってしまう。しかし、ヴェガの事だ。人前でじゃれあうのは嫌なのだろう。 「それより、私達も暫くウエルトに居させて頂いていいかしら?」 ヴェガの表情に気付いたクリシーヌは、腕をほどきながら言った。 「うん♪そんなの勿論OKだよ」 今まで黙って話を聞いていたサーシャが嬉しそうに言う。 「ありがとう、サーシャちゃん♪ あとでご褒美に男の堕とし方について教えてあげるわ」 サーシャにウィンクするクリシーヌ。 (…おいおい。サーシャを汚さないでくれよ?) ある種の不安は覚えたが、心強い味方が俺達に付いた事には変わりない。 いつ奴等がまたサーシャを狙ってくるかわからないんだ。 そんな俺の心配をよそに、サーシャはヴェガ達を客室へと案内していった。 …………… ……… … 俺は長旅の疲れを癒す為、久々に自室に戻って寝た。 部屋は綺麗だった。 おそらく誰かが掃除してくれたのだろう。 「闇魔神カーディス…か」 俺は剣に宿りし魔神の名を呟いた。 すると、『魂喰い』が黒く輝きだした。 光が鞘から盛れている。 俺は驚いて剣を抜いた。 すると、あの巨人族との戦いの時の様に脳内に声が流れて来た。 『我が力が欲しいか?』 (別にあんたの力じゃなくてもいい。 ただ、大切な人を守る為に力が欲しい) 再び会話ができるなんて思ってもいなかった。 こいつには色々訊きたい事もある。 『ふっ…良い答えだ。 人間の感情特有の恋というモノには我も興味がある』 (な、なんであんたにそんな事言われなきゃいけないんだよ!) 魔神の予想外の返答につい声を出して言い返しそうになった。 『隠しても無駄だ。 我は常にお前と戦ってきた。 そして、お前の剣に宿る心が変わったから我は姿を表したのだ』 (剣に宿る心?) そのまま問い返した。 姿を表した…というのは、おそらく俺がオルテガとの一戦の時の事を言っているのだろ う。 『自分では気付かぬか…? あの時のお前は、初めて≪誰かの為に戦う≫という心に目覚めたのだ。 それまでは自分の欲望を埋める為…即ち殺しの為だけに剣を振るい続けていた』 闇魔神カーディスの言葉は当たっていた。 (誰かを守る為に戦う…か) その言葉を繰り返して脳内で呟いた。 『そうだ。それこそ人間にだけ与えられた感情。それが無く、殺しを楽しむだけなら魔神 と変わらぬ』 (痛いところを突くな。 でも言ってる事は正しい。 …それにしても、あんたも魔神にしては変わってないか?闇魔神なんて名乗るくらいだか らとことんな悪だと予想してたんだかな) 事実、そう思う。 さっきのセリフなど、まるで聖者の様なものだ。 『それが人間のもつ≪偏見≫というものだ。 闇とつくから悪、魔神だから悪…余計な知識が思い込みや偏見を生む』 それも当たっていると思う。 その証拠に赤子は差別をしない。 『魔神の中でも、無駄な虐殺を嫌う者もいるのだ。数は少ないがな』 (あんたや風魔神?) 『そうだ。まだ他にもいるがな。 我々は光の王女に惹かれ、武器と化したのだ』 (…っ!?) 予想外の言葉が出た。 (光の王女と魔神の関係は何なんだ!?) また声を出しそうになった。 その問いに、闇魔神はゆっくり答えた。 『もう何万年も前の話だ。 我は力はあるが、殺しを嫌っていた。 それゆえ、魔神族からは迫害されていた。 我はずっと独りだった。 そして、その孤独に耐えれなくなった我は、暴れ始めた。孤独感を消す為に。 そんな時、一人の人間の王女が我を訪ねてきた。 貴方は本来、力に任せて暴れる様な方ではないはず。その力を平和の為に使いませんか、 と。 その少女の微笑みは全てを包み込む様なオーラを放っていた。 王女と話していると、今までの孤独感が全て取り除かれた様な感覚になったのだ』 サーシャみたいだ、と俺は思った。 『そして、我はその少女の願いを聞き入れ、我の愛用していた剣に我が魂を注ぎ込んだね だ。 そして今まで数々の者に扱われ、お前の元へ来たのだ』 闇魔神は俺と似ていると思う。だから俺の手元に来て、目覚めたという事なのかもしれな い。 『お前の仲間…あの風魔神ファラリスの力を持つレシエという女が、光の王女は誰でも良 い、と言っていたが、あれは間違った伝説だ。 光の王女はサーシャでなくてはならぬのだ』 …とても貴重な話を聞けたと思う。 情報とか、歴史とかそんなモノじゃなくて…魔神も人間と似ている部分があるという事 だ。 いや、この魔神に限っては人間と同じだと想う。 (一つ、教えてやろうか?) 『何だ?』 (あんたが光の王女を想った気持ちこそが恋なんだよ) そう言ってやると、闇魔神は少しの間黙り込み、そして嬉しそうに言った。 『なるほど…。あれが恋だったのか。 …やはりお前は我の力を使うにふさわしい者だ。 力の使い方を今夜教えよう』 (今じゃないのか?) いつ敵が攻めてくるかわからない分、今すぐ教えてほしい。 『今使えば、城や街が混乱するぞ? それに、お前の体力の回復を待ちたい。 我が力を使うには膨大な体力を要する』 しばし考えた後、俺は素直に彼の言葉に従う事にした。 闇魔神カーディスは、俺にとっては戦力であり、友なのだ。 (わかったよ) 俺は『魂喰い』を鞘に収め、早めの眠りに着いた…。 |