いつの間にか、辺りはすっかり暗くなっていた。いつからここにいて、いつまでそうしているつもりなのか、自分には見当もつかなかった。しかし、ライネル達は何故か私に付き合ってくれていることだけは、はっきり見て取れた。
「貴方達までここにいなくてもいいのに。いくらここが温暖でも、さすがに夜の外は厳しいわよ」
「ま、俺たち長い付き合いだから一回くらい、いいんじゃね?」
そんなことを言って、まだぼんやりしていた私の肩を叩いたのはライネルだ。長い付き合いだからいい、と言うのは何の根拠なのかはよく分からないけど、それでもまあいいや、等という気分になる。
「そんな気もするわね…でも、所で結局貴方達何の用だったの」
そう言ってみると、突然ノートンが焦ったような顔でこっちを見た。しかも、足運びまで怪しくなっている。
「べ、別におれはライネルを追っかけてただけで」
「バーカ!! 真っ先に顔見に行くなんて言い出したのはテメェだろっ」
質問に答え終わる前に、ライネルが相方の本心をすっぱ抜いてしまった。
「お、おいライネル?! 何でばらすんだよそんなことお」
「隠したってオメェのためになるかいっ! んま、ばらしたらケイトのためにもならんめぇ」
「ほんじゃ何か? おれがケイトの毒ってか??  …オッホン、ごほごほっ!! いや、ケイトすまんな」
それがきっかけでまた喧嘩になるかと思ったのに、それを強引に止めたノートンが私に向き直る。
「顔に似合わず心配性だわ、貴方」
実際私に心配される要素はないと思っていた。ただ1つ、サーシャ様絡みのことをのぞけばの話。そのために、今もいきなり街で座り込んだりしているのだ。それでも、ノートンが自分を気にかけているとは意外なことでしかない。
「これでも気にしているんだ、顔のことは言いっこ無しだぜ」
「意外だった、て意味よ」
どういう風の吹き回しだ、とは、明らかに精一杯のノートンに対して言えなかったし、ひたすら自分を心配していたのがライネルでも、そんな図々しいことも言えない。しかし、ノートンは聞かれてもいないことを独りでに話した。
「だってよ、別に人に頼まれたんでもないのに妙に気にかかって、見てなきゃいかんような気もするしな…なんかの因果なのかねぇ」
そう言うと、今度は予期せぬ所から声が飛んだ。
「何よノートンそのセリフは? プロポーズにしちゃ臭すぎるわよ」
その声は私達の頭上をかすめて遙か彼方に流れていった。すると今度は音の行った方向から、翼を持った何かが接近してくる。暗いので何かまでは分からなかったけど、それがまた頭を飛び越えて付近の平地に降り立ったことは分かった。
「ま、あたしなんかには当分縁のない言葉だから、ここでヤキモキすることないわ」
そして、その生き物を降りた人物が、ようやく姿を見せた。緑色の髪をショートにした、少女と大人の中間みたいな女性だった。
 
 私はあまり変わらないので周りが少し変わると何も分からなくなるのか、それとも彼女自身変わりすぎて誰が見ても分からないのか。彼女と私は初対面のようにしか思えなかった。ノートンにライネルも、全く同じ感想を持っているらしい。
「…………誰?」
三人揃ってそう言った。
「…………………」
少女はある種のバカバカしい冗談を聞いたように、一瞬冷たい目を見せた。それで、黙りこくったままこちらに上目遣いをしてくる。
「…ごめんなさい、以前お会いしたかしら」
私はやんわりと『アンタなんか知らないわよ』と言って見せた。しかし、
「知り合いに向かって何だって言うのよその慇懃無礼な振る舞いは!! それともあたしのこと忘れるなんてひどいわよみんな!!」
そう言ったために彼女は目を剥いて反抗してきた。そうされても知らないものは知らないのである。そこへ、オレンジ色のベリーショートの女性が出て来て
「まぁまぁ落ち着いてよ。四年近く会ってないなら無理ないものね。本当に見違えちゃったから」
と言ってその女性をなだめた。このオレンジ髪の人物は、いつかの印象を非常に色濃く残していた。しかし、だとすると緑髪の人物に対する結論はたった一つしか無くなった。
「あのな…違ったら悪いが…フラウか?」
私に言い出す勇気がないのを見て取ったライネルが代わりに言った。
「大正解…あーもうっ!! 何で気付かないかなっ」
当てたというのに、まだ腰に手を当ててしかめ面をしている。
「でも…それともそれだけあたしが美人になった証拠だったりして、クス」
しかし次の瞬間にはそんなことを言って笑い出していた。忙しい人だ。確かに、四年前の彼女よりさらに綺麗になっているのかも知れない。自分には美人の基準がないので分からないけど。ちなみに、オレンジ髪の人物はサンと言うことになる。彼女もかつてと少し変わった気はするが、四年前と服装も雰囲気も同じなのですぐにそれと分かった。
「そう言えばケイトさんお久し振りよね」
と言いながらサンは笑う。それも、何一つの他意もなく。結構な歳になるはずだが、この辺は全く変わっていない。
「本当に。あの時以来だものね」
「そうよねぇ…戦後はケイトもあたしもサンも多忙に駆られてたもんね」
と、フラウも加わり、男性陣ははじき出されていた。
「え? フラウまで?」
そこにサンは何故か突っ込んで聞いた。サリアで忙しいことなんかなかったと思っていたらしい。
「あのねぇ…ヴェーヌお姉様はカナンでネイファにかかりっきりだし、マーテルはリシュエルの所行っちゃったしで、あたしはアハブの奴に人員吸われてた天馬騎士団の再生に大忙しだったわよ。…火の巫女をどうこうの仕事はホームズが意地張ったお陰でほされちゃったから、またあたしはお留守番ってわけ。でもあたしもちゃんと頼られてるんだから悪い気しないわね」
このとき、さり気なくフラウは姉の名を呼び捨てにした。もしかして彼女との間に何かあったのか、とも思ったが、今更気にかけることもないと思った。
「良かったよね、フラウ。状況がだんだんフラウに向いてきてて。私はもう一歩なんだけどね」
二人の会話になりつつあるところを、私はすっかり外のライネル達に声をかけた。
「たまにはうちに来ない?」
と。そうすると彼等は、願ったり叶ったりと言わんばかりの顔を見せた。どうも、自分も酒を持ち寄って昔話でもしようと思っていたらしい。実を言えば私も似た考えで、お酒を多く買っていた。取りあえず、今は人に囲まれていたい気分だったのだ。なるべくサーシャ様のことばかり考えないようにしておきたかった。

 

 

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