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自由都市セネーを攻略したウエルト・ラゼリア連合軍の将兵は、戦勝パーティを楽しんでいた。ウエルト王宮以来久方ぶりの饗宴であり、誰もが浮かれ騒いでいる。 そんな中、憮然たる表情の人物が一人…… 連合軍の軍事指導者、リュナン公子である。
「何度でも申しますが、リュナン様はまだ未成年。酒など論外ですぞ」 オイゲンが厳(いかめ)しい表情で注意した。 「いまさら何を言うんだ、オイゲン。ワインなどグラナダにいたころホームズとよく飲み交わしていたぞ」 リュナンが反論すると、オイゲンは鼻で笑った。 「フッ……では、そのワインの味はどうでした?」 「水みたいなものだったな」 リュナンは胸を張る。(自分は酒を飲めるんだゾ)というこの年頃の男の子特有の自慢げな表情だった。 するとオイゲンはニヤリと口元を歪めた。 「『水みたいなもの』ですか……その通り、あの頃リュナン様のお飲みになっていたのは水……正確には葡萄の果汁ですな、クックックッ……」 辛抱堪らないという風情でオイゲンは含み笑いをもらした。 「な……に……?」 思いもよらない指摘にリュナンは疑わしそうに老軍師の顔を見返した。オイゲンは得たりという表情になる。 「フッ……リュナン様がやたら葡萄酒を飲んでみたいとせがむので、困ったホームズが私に相談を求めてきましてな……少し知恵を貸してやった次第でして」 オイゲンの説明をきくうちにリュナンはポカンと口を開き、呆けた顔つきになった。 「ホームズめ……僕を騙していたのか……『男同士酌み交わす酒は格別だな』などと言っていたくせに……あれは演技だったのか……」 少なからず衝撃を受けた様子の若い主人をオイゲンは慰めた。 「なぁに、ホームズは実は下戸でしてな。『飲もう飲もう』と連呼するリュナン様にほとほと困り果てていたのですよ」 そしておもむろに笑い出す。 「そういえば……私が葡萄の果汁を勧めたとき、『オレも果汁から徐々に慣れていこう』と申しておりましたぞ」 奴もお子様ですからな、と大笑いしながらオイゲンは付け加えた。 リュナンはガクッと肩を落とした。
「むっ、公子。どうした、不景気な顔をして」 パーティ会場をふらふら歩くリュナンに向かって声をかける者がいた。 「ノートンか……」 このウエルト軍人は強烈な印象の容貌の持主だ。けれどウエルト兵から集める信望は絶大であり、リュナンも少なからず“頼れる兄貴分”という印象を持っていた。 リュナンは先刻のオイゲンとの会話をノートンに聞かせた。 するとノートンはプッと吹き出した。 「な、何を笑うんだ?」 「いや、スマン」 少しも済まなそうでなくノートンが言った。 「何だかカワイイと思ってね」 「かわいい?
僕がか?」 心外そうな声と表情でリュナンは聞き返した。 「ああ。さっき俺達の姫様もケイトに叱られていたんが……守り役に『飲んでいい?』と訊くのが悪い。止められるにきまってるじゃないか」 そう言ってまたクックッと笑う。サーシャとケイトのやり取りがよほど面白かったのだろう。 「そういうものか……」 リュナンは感心したように呟いた。そのセリフにノートンは目をぱちくりした。そして、 「純粋というか、素直というか……まぁ、そういうところが受けてるんだけどね、公子サーシャ様も」 「……もしかしてバカにされているのだろうか」 「誉めているんだよ。臣下にとっちゃあ主君が素直で善良な人物の方が、噂に聞く何とかハイマーさんみたいな擦れっからしよりよほど支持できる。忠誠の尽くしがい、支えがいがあるというべきかな」 (『何とかハイマー』か……) リュナンは件の人物の顔を一瞬思い浮かべたが、すぐに頭を振って脳裏から追い出した。何も宴の最中に不愉快な記憶を呼び起こす必要はない。 そんな公子の態度をどう解釈したのか、ノートンは意味ありげにニッと笑った。 「……?」 「この場の主役の一人なのに、酒も貰えない公子様に俺からの献上品だ」 リュナンの肩を抱き寄せると、オイゲンに見えないようこっそり小さな酒壜を手渡す。 「後で飲もうと思ってとっておいたヤツだがね。公子もこいつで飲む練習をしてみなよ」 「ノートン……」 リュナンは言うべき言葉が見つからなかった。 「だけどオイゲン将軍に見つかるんじゃないぜ……いや、見つかっても構わないが、俺の名前は出さないでくれよな」 ノートンは公子に向かって器用にウィンクして見せた。
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