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パーティ会場である市長の公邸をこっそり抜け出し、植え込みの間でひっそり酒を嗜む。幼い頃のいたずら気分が復活して、少しばかりリュナンはドキドキしていた。
夜風が火照った頬に心地よい。 そんな感想を抱きながら、ノートンから受け取った酒壜をいそいそと開封する。 その場に酒精の匂いがひろがった。つん、と鼻腔が刺激された。 「うむっ……」 少しむせるような感覚に襲われる。やはり自分には飲酒はまだ早いのだろうか、と一瞬躊躇した。しかし、 『やっぱりリュナンはまだまだガキだよな』 いきなりホームズの顔がからかいの言葉とともに脳裏に浮かんだ。自分で勝手に想像した親友のその言葉にリュナンはちょっとムッとなる。 「やってやるさ、飲んでみせる」 頭の中の親友相手に宣言した。 『そんなに気負うことないだろう。だからお前は子供だっていうんだ』 想像上のホームズがまた勝手なことを言い出した。リュナンは無視を決め込んだ。今の彼は目の前のブランデーをどうやって飲むかについて考えを巡らせていた。手元には酒壜しかないのだ。 (グラスがあれば良かったのに……) けれど無い物は仕方ない。少し迷ったがリュナンは壜口に直接口をつけた。
「あ……」 背後で声がした。けれど誰何(すいか)する必要はなかった。彼のよく知る声……思わず聞惚れてしまう……澄んだ、そしてとても愛らしい声だった。 「サーシャ……」 ゆっくり振り返りながら、リュナンは微笑んだ。先刻までのちょっと尖った気分は霧散し、今はとてもゆったりした感情の中にあった。 「はい……!」 いつも元気な王女は快活に返事した。 「探していたんですよ? リュナンさま、途中でいなくなっちゃうんだもの」 少し拗ねたように言いながら、サーシャが近づいてくる。 「それは悪かったね。月がとても丸かったから……思わず鑑賞していたんだ」 リュナンは自分でも意味不明なことを口走ってしまう。急速にアルコールが脳に回っていくのを感じていた。けれど、いかんとも為し難かった。 「……なにをへらへら笑ってるんです?」 公子のにやけた顔を見たサーシャは足を止め、少し用心するような貌で訊いた。 「へらへら」 サーシャの言いようはとても理不尽で失礼に聞こえたが、今のリュナンは寛大だった。 「まぁ、戦に勝ったこんな時くらいは、鹿爪らしい表情でいなくても構わないだろ?」 マトモそうなことを言ってみる。その様子にサーシャは警戒心を緩めたようだった。 「ちょっとお酒のにおいがしたから……」 リュナンの傍らにちょこんと座りながら、王女は弁解した。 「リュナンさま、お酔いなのかなと思ったの」 「……酒は飲んでるよ」 「うん、それはわかります。でも、酔っちゃったりはしないんですね……リュナンさまはオトナだから」 感心したようなサーシャのセリフにリュナンはすっかりいい気持ちになって、 「まぁね。グラナダにいた頃はホームズと夜通し酒を酌み交わしたものだ」 と先刻偽りだったと判明した思い出を語って聞かせた。 「男の人どうしの話ですね?
いいなぁ……わたしもお酒を飲んでみたい。そして熱く人生を語り合うの」 飲酒行為に誤解した憧憬を抱いているらしい。サーシャが羨望の眼差しを向けた。 「じゃあ。飲んでみる?」 リュナンが訊いた。 「え……でも……ケイトに叱られちゃう」 困ったような瞳で王女はリュナンの顔を見た。公子はにこにこと、 「サーシャはかわいいことを言うんだね。少しだけなら黙っていれば分からないって。いちいち許可を求めるから反対されるんだ」 ついさっきノートンに言われたことを受売りする。 「それもそうか……そうですよね」 サーシャが目を丸くした。啓蒙されたような表情になる。 「飲むんだね?」 リュナンの問いに王女は嬉しそうにこくんと頷いた。
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