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「じゃ、動かないで」
 サーシャの肩に手を載せてリュナンが命じた。
「……は?」
 王女は怪訝そうに公子を見上げる。リュナンは生真面目な表情で、
「これから口移しで飲ませてあげるから」
「え」
 リュナンのセリフにサーシャは息をのんだ。鼓動がいきなり早まる。
 ……心の準備がまるでできてない。
(つまりこれってキスよ……ね?)
 婉曲な表現で唇を求めている……サーシャはそう解釈した。リュナンのその言葉はお世辞にもロマンティックとは言えなかったけれど、それでも王女の胸は高鳴った。
 けれど……
「サーシャ……」
 肩を掴むリュナンの力が強まるのを感じたサーシャは思わず、
「や……!」
 と振りほどこうとした。恥ずかしさのあまりの咄嗟の振舞いだ。
(あ……)
 今の行動は公子の気持ちを傷つけたのではないか。サーシャは
 リュナンの膂力は意外に強く、王女はぎゅっと抱きしめられた。
(いきなりすぎます、リュナンさま……!)
 くらくらしながらサーシャはリュナンの腕の中で考えた。
(……いやじゃないけど……いやじゃないけど……)
 そんな王女の内心の葛藤を少しも理解せず、リュナンの唇がゆっくり近づいてきた。
(あ……あ……)
 それを見たサーシャはかぁぁっと全身が熱くなる。思わず目を瞑った。しかし……
「……」
 リュナンの口の中から(ちゃっぷん、ちゃっぷん)という音が聞こえてきた。
「……え?」
 目を開き耳を澄ます。
(ちゃっぷん、ちゃっぷん)
 聞き違いではない。リュナンの両頬が微妙に膨らみ揺れている。
「……いやッ……!」
  サーシャは小さく泣き声をもらした。つまり、リュナンは遠まわしにキスを求めているのではない。口移しで酒を飲ませようと本気で考えていると分かったからだ。
(そんなの、イヤ……!)
 サーシャは強く思った。
(……初めて……の……なのに……)
 いくら好きな人とでもこれではあんまりだ。
「リュナンさま、酔ってるんでしょっ」
 咎める目つきと口調でサーシャは言った。
 すると……
(ごっくん)
 と口の中で酒を飲みこむ音が聞こえた。そして、
「酔ってらんかいらいろ」
 ろれつの回らぬ口調でリュナンが律儀にも返事をした。頬が微妙に赤い。
(あう……)
 こんな際なのにサーシャは思わずリュナンのことをカワイイと感じてしまった……

 

 

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