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グラナダ奪還後、しばらく時間の余裕ができた。 その余暇を利用して、ホームズはサーシャをグラナダ見物に誘った。
「うーん、でもね……」 ホームズの申し出を聞いたサーシャは小首を傾げて考え込んだ。 「カトリちゃんのいない時に、ホームズと一緒に出かけるというのはねー。何となく後ろめたいかも」 と困ったように言った。けれど、本心は一緒にグラナダの街を巡ってみたいらしい。さもなければ、ホームズの提案を一蹴しているはずだ。 そんなサーシャの内心を見て取ったホームズは、たたみかけるように言った。 「カトリは関係ねーだろ。俺はお前を誘ってんだ。城育ちだから、こんな機会でも無ければ普通の市民の暮らしぶりなんか分からんだろーが。いつもは戦争ばかりだしな。いわば後学のためだ。妙な想像してんじゃねーよ」 ホームズの勢いに目を丸くしていた王女だが、彼の言葉が途切れるとクスッと笑った。 「そうね。ホームズはカトリちゃんにゾッコンだものね。余計な気を回した私が愚かでございました」 サーシャの瞳は悪戯っぽく煌(きらめ)いている。ホームズはややうろたえて言った。 「だから、今はカトリの話をしてるんじゃなくて。俺と出掛けるのか出掛けないのか、すっぱり返答してくれい」 「はい。ホームズと一緒に行きたいです」 サーシャはにっこり頷いた。 「す、素直なんだな」 ホームズは拍子抜けした表情になる。 「うん。私、グラナダの街を見てみたいの。何だかホームズの秘密が覗けそうで、ドキドキするなぁ」
サーシャを連れてグラナダの街を歩いてると、知り合いが声をかけてくる。 かれらは一瞬驚いた後、ホームズとサーシャを見比べてから、決まって尋ねるのだ。 「連れの子は?」 ホームズの返答も判で押したように同じである。 「ああ、妹みたいなもんだ」 すると、なぜか安心した表情でかれらは言った。 「フッ、だろーな。お前さんにカノジョを作れる甲斐性があるとは思ってないさ」 「うるせえ。さっさとあっち行け」 ホームズも顰(しか)め面で応対する。 そんな情景をサーシャは興味深そうに眺めていた。 何度か似た場面が繰り返された後、サーシャが訊いた。好奇心でうずうずしているように見えた。 「ねえねえ、どうしてみんな“妹みたいなもの”で納得してるの?」 「う」 ホームズは返事に窮する。まさか、異母兄弟がわんさかいるから、とも答えづらい。 「どうして?」 サーシャが繰り返し尋ねた。ホームズは頭を掻きながら、 「それは、わが親父殿の素行に関係するのだが……まあ、コドモには理解できん話だ」 「私ってコドモなの?」 「例えばだ。お前、自分がシゲンよりオトナだと思うか?」 サーシャの顔を覗きこみながら、ホームズは逆に訊いてみる。王女は少し考えてから、 「うーん、それは無いかな。あの人って妙に落ち着いていて、オジサンみたいだもの」 と生真面目な顔つきで答えた。その評価に、ホームズはつい喜んでしまう。 「なら、クリシーヌはどうだ?」 調子に乗って質問を重ねた。 「…えーと、それは答えにくい質問かも」 あはは、と愛想笑いで誤魔化しながら、サーシャは答えた。 「だろ」 何が『だろ』なのかよく分からないが、ホームズは満足そうに頷いた。 「まあ、サーシャが尋ねたことも、俺にとっては返答しにくい事柄なわけだ。そこのところを分かってくれや」 「うん、了解。変なこと訊いてごめんね」 サーシャは謝罪した。素直な性格は大事に育てられた証だろう。顔も思い出せない母のことを考え、ホームズの胸は少し痛んだ。
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