サーシャFC

飛竜の笛

by てんま

夜会

1

 セネー市での戦勝祝賀会は国を出て初めてのパーティである。
 この夜、サーシャは心踊るものを感じていた。国許では母妃や近臣たちの監視の眼が厳しくて、とても不可能だったこと──ワインをたしなむことができそうだからだ。


「……というわけで、ワインをいただいて参りました」
 とても嬉しそうにサーシャが報告した。王女の手にしたワイングラスの中で紅い液体が揺れている。
 サーシャの話しかけている相手はダークブラウンの髪の持主──ラフィンである。
 ラフィンは困惑した表情で、
「それで、私にどうしろと」
 と尋ねた。サーシャは彼に何かお願いがあるらしいのだ。飲酒が露見した時に備えて、口うるさそうなケイトからかばって欲しいとでも言い出すのだろうか。
「あのね……私、お酒をいただくのって初めてなんです。だから飲み方を教えて貰いたくて」
「飲み方?」
「はい。実はさっきちょっとだけめてみたのですが──何だかとても苦くて。他の方は平気で飲んでらっしゃるでしょう? お砂糖でも入れるのかしらと思ったの」
 ラフィンは思わず吹き出しそうになったが、サーシャは真剣な眼差しだった。本気で言っているようだ。何しろ彼女は宮廷の奥深くで大事に育てられた姫君であり、さらに言うなら両親から厳格にしつけられてもいる。酒について多少疎くても、この年頃なら仕方の無いことと言えた。
「そうですね……砂糖で甘くするより、もっと良い方法がありますよ」
 笑いをこらえつつラフィンは言った。
「ほんとう?」
 サーシャが期待に満ちた声を出した。ラフィンに対する王女の信頼感は抜群なのだ。
「どうするのですか」
「こうするのです」
 そう言うと、ラフィンはサーシャの手にしたワイングラスを取り上げた。
「あっ」
 不意をつかれ、サーシャはグラスを手放してしまう。
「没収です」
 王女の手の届かぬ高さまでグラスを掲げ、ラフィンは微笑した。
「ああん、そんな……」
 背伸びしてもグラスを取り返すことができず、サーシャは哀しそうな声を出した。
「私は王家の……すなわちサーシャ王女の忠実なナイトのつもりです。ですから、王女のご希望はなるべくかなえてさしあげたいのですが……このことに関しては年長者として意見させていただきますよ」
 不満げなサーシャに向かって、ラフィンはお説教調で言った。
「お酒は大人になってからです」
 そう言うと、ラフィンはグラスの中味を一気に飲み干した。
「ラフィンのこと……信じていたのにひどい……」
 サーシャは口の中でぶつぶつ呟いた。
 けれど、すぐに王女らしい凛としたかおつきになる。
 ラフィンが近くを通った昔馴染みを呼び寄せ、サーシャに紹介したからだ。知人ではない他国の騎士の前で子供っぽい態度を見せるわけにはいかないと考えたのだろう。
(誰にでもすぐになついてしまうくせに……)
 澄ました表情を浮かべた王女の横顔を、ラフィンは微笑ましく見つめた。

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