3
巨大な翼が空気を切る音。
上空を舞う黒い影。
「……ほんとに来ちゃった」
サーシャが驚いた表情を繕おうともせず、小さな声で呟いた。その青い瞳には天空を悠然と飛ぶ竜の姿が映っている。
王女はすぐに正気を取り戻し、
「おやー、初心者の笛の音に惹かれて竜がやってきましたねー? もしかすると私って天才なのかしら」
傍らのラフィンに向かって軽口を叩いた。けれどすぐに不審そうな顔になる。
「……ラフィン?」
青年は呆然と降下してくる竜を見つめていた。サーシャの声は彼の耳に届いてないようだった。
「ガルダ……」
ややあって青年はポツリと呟いた。
「え?」
彼の言葉をサーシャが聞きとがめた。
「『ガルダ』って、あの飛竜のこと?」
探るような眼差しでサーシャは尋ねてきた。
「え……あ……いや……」
ラフィンは訳も無くうろたえた。
けれど王女の関心はすぐに新しい友人へと移った。
軽い地響きとともに飛竜──ガルダが地上に舞い降りた。
サーシャが駆け寄った。
「サーシャ様、危ない!」
ケイトが警告するように鋭い声を出した。
「大丈夫、大丈夫」
サーシャは能天気な笑顔を見せた。
「だって、この『飛竜の笛』に呼ばれて来た竜なのよ? 危ないわけないじゃない。ね……えっと、あなたのこと、何と呼べば良いのかしら」
「ガルダ……」
旧友に近づいたラフィンがそっと呟いた。懐かしさでいっぱいだった。何年ぶりの再会だろう。ガルダも何とも言えない瞳で彼のことを見つめている。
「ダメよ、ラフィン」
サーシャが文句を言った。
「?」
「勝手に私の飛竜に名前をつけてはダメ」
ガルダの体を撫でながらサーシャが諭すような口調で言った。
「ペットの名前を付ける権利って、その飼主にあるんだから。ねえ、ガルダ……って、いけない。ラフィンに影響されちゃった」
王女は首を振りながら、何やらぶつぶつと呟いている。ラフィンは聞いていなかった。
(おい、聞いたか、ガルダ……お前、ペットだそうだぞ)
懐かしい『友達』の体に手を触れながら、ラフィンはそっと囁いた。くっくっと含み笑いする。
ガルダの表情が情けないものになった。ラフィンだけにしか分からない『友達』の感情の変化。
(それにしても、お前……サーシャ王女の呼びかけに応じたのは偶然か? それとも……俺がこの姫のすぐ傍に仕えていると知っていたのか?)
「……!」
ガルダは声無き声で鳴いた。『察しろ』といっているようだ。
「な、なに?」
突然のガルダの咆哮──というほどのものでもなかったが──にサーシャが驚いた。
「どうしたの、ガルダ……あ、また言っちゃった……もう、ラフィンのせいなんだから! 私の名づけ権を返して」
「『ガルダ』で構わないじゃないですか。こいつも気に入ったみたいですよ。なあ」
「……!」
ラフィンが言うと、ガルダが同意するように鳴き声をあげた。
「むー」
王女は少しだけつまらなそうな表情を浮かべたが、
「ま、いいわ。では貴方は今から『ガルダ』という名前よ、覚えてね……」
けろりとして言った。ガルダは神妙にしている。
(そいつはもともとガルダという名前なのですけれどね、サーシャ王女)
王女の声を聞くうちにラフィンは愉快になり、無性に笑いたくなった──
<Fin.>
ですが、その後もプレイを繰り返し、サーシャの言動を何度も見た結果、今では彼女は12〜14歳くらいだと思っています。
マーテルやヴェーヌのことを「お姉様」と呼ぶ従姉妹のフラウから、彼女は「サーシャ」と呼び捨てにされています。ですから、サーシャは少なくともフラウより年下ではないでしょうか。
また、MAP1クリア後、リュナンは10歳の頃ウエルトを訪れたと言っていますが、彼はその時「幼い王女と遊んだ」と述懐しています。10歳くらいの少年から見て「幼い」と感じられる程度の年齢差が、リュナンとサーシャの間にはあると思うのです。
それはさておき、サーシャの年齢に対する印象が変化したことがお話を完結させるまでに時間がかかってしまった理由……ということにさせてください(笑)。
次回のお話は、姫だっこ投票の結果か護衛の抱負投票の結果に基づいたものにする予定です。